source : 2011.11.21 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
これから年度末にかけて最大の論点は消費税率10%までの引き上げだろう。野田佳彦首相は11月19日、東アジアサミット後の記者会見で、消費増税法案は「法案提出するときが閣議決定だ。その前から与野党と政策協議をしたい」と語った。法案提出の一応の期限は来年3月末までだが、それまでに与野党協議して消費税増税を国会でスムーズに通したいとしている。
これはかなりムシのいい話だ。政権内からも異論が聞こえてきている。
民主党の小沢一郎元代表は19日夜、インターネットサイト「ニコニコ動画」の田原総一郎のインタビューで、消費税率引き上げについて「抜本改革を何もやらないで、ただ増税するのは反対だ。選挙の時に言っていた行財政の抜本改革はほとんどできていない。お金がないから消費税というのは国民に対しての背信行為だ」と言った。
また、国民新党の亀井代表も19日、テレビ東京の番組で「大震災やデフレの状況の中、消費税(増税)をやる環境ではない」といった。
■為替レートと名目GDPは7割の関係がある
民主党は、政権交代前に鳩山由紀夫代表が「4年間は消費税を上げない」といっていたが、その話はどこに行ったのだろうか。菅直人総理は消費税率を10%まで上げるといって昨年の参院選で惨敗した。にもかかわらず、今年初めの内閣改造で、増税論者の与謝野馨氏を閣僚で起用して増税路線をとった。東日本大震災があったので、普通ならば増税取りやめだが、なんと大震災を増税の口実に使った。
菅総理の後には、財務省のいいなり野田佳彦総理だ。政権交代前の約束はすっかり知らんぷりで、増税一直線だ。増税がすべてに優先している内閣だ。
自民党の小泉純一郎総理も自分の任期中は消費税を上げないといい、財政再建目前までいった。私はその時に竹中平蔵経済財政担当・総務相補佐官として、郵政民営化その他の構造改革を行いながら、マクロ経済運営にも関わっていた。その後、安倍総理補佐官補として経済運営全般を行った。安倍総理からは株価を1万5000円以上にできるようにといわれた。
その間、構造改革を行いやすく、財政事情にも悪影響がないように気をつかった。今回はそれを紹介しよう。簡単に言うと、為替レートである。
為替レートが1ドル100~120円なら、海外市場に活躍する日本のエクセレントカンパニーやその関連業種は強く、日本経済は問題ない。それらが稼ぐ法人税その他税収はよくなって、日本の財政にも好影響になる。そのような為替レートだと株価も高くなる。2000年代、為替レートと名目GDPは7割程度の相関がある。
その結果、為替レートは一般会計税収とも7割程度の相関がある。
そして、為替レートを一定の範囲で維持するには、介入でもなく、金融政策がきわめて重要だ。これは、8月22日付け本コラム「史上最高値を突破した円高につける薬はある 為替を読む『高橋法則』と民主党代表選の見方」 などを見てもらえればわかるように、為替レートが、日米の通貨量の比になる以上、日本の通貨量(マネタリーベース)を増やせば相対的に円が多くなり円安、減らせば相対的に円が少なくなり円高になるという、小学生でもわかる単純な原理を使っている。
■政権内部に理解者がいた小泉・安倍政権
為替レートを一定の範囲にするといっても、日銀に金融政策をどのようにするかを仕向けるだけだ。
幸いにも、小泉政権や安倍政権ではよき理解者がいた。竹中経済財政担当相や中川秀直政調会長・幹事長だ。タイミングよく日銀に働きかけてくれた。
その結果、各政権の平均為替レートを見ると、小泉116円、安倍119円と及第点だ。それ以降、福田108円はまずまずだが、麻生97円、鳩山91円、菅83円、野田77円とどんどん円高になっていった。
ほんとうに為替レートを動かすことができるのか疑問に思うかもしれないが、デフレ脱却に熱心なら円安になる。というのは、円とドルで円が相対的に少なければ円高になり、円とモノで円がやはり少ないとモノが相対的に多くなってデフレになる、つまり円高とデフレに密接な関係があるからだ。
多少為替市場を知っている人は、小泉政権時代に溝口・テーラー為替介入があったというかもしれない。実は、その政策は、日銀が頑として金融緩和せず、財務省も為替介入の効果があると世間に思ってもらいたい両者の願望を叶える苦肉の策だった。
財務省の介入は政府短期証券(為券)を発行して外貨債を購入するという「財テク」と同じ方法だ。その際、政府短期証券が発行されるので、放っておくと短期金利が上昇する。量的緩和政策をとっている日銀は、いやでも市場に出た政府短期証券をある程度買い取って、その代わりにマネーを供給せざるを得ないのだ。
(注)このオペレーションを、マーケット関係者は非不胎化とかいうが、この用語は1999年より前の政府短期証券について全額日銀引受制度を前提(この場合、金融政策の中立性のために「不胎化」オペレーションが必要)としているので、今のように政府短期証券について政府短期証券について市中引受制度(この場合、金融政策の中立性のためにオペは必要でない)では、適当とはいえない。
介入のために市中に発行された政府短期証券30~40兆円のうち半分近くは日銀が買い取りした。その分、ベースマネーが増加して、円安になったのだ。介入をしても日銀が政府短期証券の買い取りを行わない限り(今の制度はそれが可能)、ベースマネーは増加せず、円安を維持することはできない。
■日銀法を理解していない安住大臣の国会答弁
今の民主党政権は、為替の力を理解していない。2009年の総選挙の時に、円安にした小泉政権は間違っていたというキャンペーンを行った。民主党は、円高がいいと思っている。その典型は、藤井裕久元財務相だ。増税路線を確立した与謝野馨元財務相も円高論者だ。増税論者は円高論者が多い。というのは、円安になると前述のように税収が上がり、増税の理由がなくなるからだ。
その円高DNAは今の財務省にも流れており、そのレクを受けた安住淳財務相も円高がいいと国会答弁でいってしまった。
15日午後の参議院予算委員会での川上義博氏(民主党)への答弁だ。川上氏が「日銀は民主党の足を引っ張っている」といったところ、安住財務相は、「日銀法でいえば物価安定と自国通貨の価値を高くするということは放棄できない。その中で可能な限りの緩和をやっていかなければならないということが大事だ」と日銀をかばい、金融緩和を随時やってくれると日銀に期待した。
日銀法では、第1条第1項で「日本銀行は、・・・銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。」とされ、同条第2項で「日本銀行は、前項に規定するもののほか、・・・信用秩序の維持に資することを目的とする。 」と規定されている。第2条では「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とされている。どこにも「自国通貨の価値を高くする」とは書かれていない。
安住財務相は財務官僚からレクを受けているわけで、自国通貨高はいいことだと思いこまされているのは確実だが、「物価の安定と自国通貨高」との答弁は大臣失格だ。もし物価の安定を先進国並に物価上昇率が2%程度とすると、先進国間で同じような物価上昇率になる。為替で両国の通貨量の比になることから考えると、為替は安定し自国通貨高にならない。つまり、物価の安定と自国通貨高は両立しないのだ。
これでは、円高放置はやむを得ず日本は救えないはずだ。
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