source : 2012.05.06 Business Journal (ボタンクリックで引用記事が開閉)
経済産業省の調達価格等算定委員会(委員長=植田和弘京都大学教授)は4月27日、7月から始まる太陽光など再生可能エネルギーの全量買い取り制度の価格案を決めた。1キロワット時当たりの買い取り価格は、太陽光で42円。出力20キロワット以上の風力は、23.1円(いずれも税抜き)。いずれも発電事業者の要望に沿う形で決着した。ちなみに買い取り期間は10~20年間となる。価格と期間が決まり、再生可能エネルギー特別措置法は7月1日に施行される。
同法では、太陽光、風力、バイオマス(生物資源)、地熱、中小水力による電気を一定期間、固定価格で買い取るよう電力会社に義務付けており、電力会社は買い取り費用を家庭や企業の電気料金に上乗せして回収する。買い取り価格が高いほど再生エネの発電会社の経営は安定するのである。
再生エネ法では「特に制度開始から3年間は事業者の利益に配慮する」と定めているが、これは企業の参入意欲を高めて、再生エネルギーの普及を後押しするためだ。太陽光発電関連企業が作った太陽光発電協会は「1キロワット時42円で20年間」を要望しており、今回、ほぼ満額をかち取った。
東日本大震災後、先頭に立ってメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業への参入を表明したソフトバンクの孫正義社長は、42円での買い取り価格について「世界水準の相場に近い」と評価。その上で、国内10数カ所に建設を予定しているメガソーラーを「もう少し増やしたい。風力発電も数カ所で検討している」と述べた。
太陽電池メーカー大手の京セラの久芳徹夫社長は「太陽光発電市場の拡大に向けての大きな一歩になる」と高く評価した。野村證券は京セラの投資判断を「Buy」とし、目標株価9200円(4月27日の終値は7860円)を継続した。固定買取価格が42円となったことにより、京セラの太陽光パネル事業は、野村證券の予想(売り上げ1200億円、営業利益は収支均衡)を大きく上回る可能性が高まった。
こうした状況もあって、太陽光発電の普及に向けて、発電所の建設・運営に取り組む企業連合が出てきた。京セラなど3社は、鹿児島湾岸の桜島に対面する埋立地(東京ドーム27個分の敷地)に29万枚の太陽電池モジュールを設置する。国内で計画中のメガソーラーの中では最大級で、発電能力は7万キロワット。総投資額は250億円に上る。全量を九州電力に販売する。
このように、適正価格による全量買い取り制度の実施をビジネスチャンスと受け止め、再生可能エネルギー関連事業への進出も活発になっている。オリックスは300億円の投資ファンドをつくる。東京海上日動火災保険系の東京海上アセットマネジメントは、三井物産と組んで100億円のファンドを設立。企業年金や生命保険会社から資金を調達して、10カ所のメガソーラーを計画している。
豊田通商が60%、東京電力が40%出資する風力発電最大手、ユーラスエナジーホールディングス(非上場)は、数年間で400億円を投じ、北海道や東北に総出力10万キロワットのメガソーラーを最低3カ所建設する方針だ。風力から太陽光にシフトするわけだ。産業界はメガソーラーの建設に向けて一斉に走り出した。
世界ではメガソーラー関連企業が倒産中!
一方で、買い取り制度の実施を前に、再生エネルギーのブームに水を差す"事件"が起きた。ドイツの太陽光パネル(太陽電池をいくつも並べて相互に接続したパネル)大手、Qセルズが4月3日、破産手続きを申請して経営破綻したのだ。Qセルズは、太陽光発電王国、ドイツを代表する企業だった。同社の創業は1999年。
ドイツでは00年に、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が固定価格で買い取る制度を導入した。これが太陽光ビジネスに追い風となり、Qセルズは07年にシャープを抜いて世界最大の太陽電池メーカーになった。
だが同国では、10年、11年の2年間で太陽光発電の買い取り価格が40%引き下げられた。さらに今年も30%引き下げる。メガソーラー設置の補助金も段階的に削られ、今年は一気に32%減らされている。補助金が財政を圧迫したドイツでは、13年1月から太陽光発電の買い取り量をカットすることが決定し、全量買い取りではなくなる。
買い取り価格が引き下げられた結果、欧州では太陽光パネルの需要が激減。11年だけでパネルの価格が46%下落した。大幅下落の引き金を引いたのは、尚徳電力(サンテックパワー)、天合光能(トリナソーラー)などの中国勢である。安い人件費を武器に、この2社が欧州市場に新規参入し、競争が激化したことが、パネル価格の急落につながった。
結局、Qセルズは価格競争で中国勢に太刀打ちできなかった。そして09年には業界トップの座から陥落。今ではサンテックパワーが世界のトップの座に君臨している。さらに、買い取り価格の大幅引き下げでトドメを刺され、Qセルズは力尽き、法的整理に入った。ドイツでは、このほかにも太陽光発電会社の破綻が相次ぎ、買い取り制度と補助金頼みの経営がいかに脆いかを、はっきりと示した。
そして11年8月には、クリーン技術を中心に米国経済を立て直そうというバラク・オバマ米大統領の「グリーン・ニューディール」のモデル企業、ソリンドラが経営破綻した。同社はアメリカ・太陽光発電事業の希望の星で、米国政府が428億円の融資保証をしていただけに、オバマ政権のグリーン路線にとってこの倒産は打撃となった。さらに同社を打ち負かしたのも中国勢。こちらも政府系金融機関から支援を受ける中国メーカーが、低価格の商品を武器にシェアを伸ばした。欧州とまったく同じ構図だ。
日本の太陽光市場の中心は住宅用だったが、電力買い取り制度のスタートにより、これからはメガソーラーが主戦場となる。かつて太陽電池市場では、シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機などの日本メーカーが世界市場で上位を占めていたが、今ではサンテックパワーを筆頭とする中国メーカーが大躍進を遂げている。低価格競争でヨーロッパやアメリアのメーカーを打ち破った中国勢が、虎視眈々と狙うのが日本市場だ。太陽光パネルの国内2強のシャープと京セラは戦々恐々としている。
再生エネ法が出来たことは朗報だが、新エネルギーを根付かせるのは、そう簡単ではない。
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