世界最低最悪のビジネスの現場から
source : 2012.10.30 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
前世紀の冷戦華やかなりし頃、「アカ狩り」が流行ったが、いま中国で起こっているのは「日狩り」である。日本製品は不買、現地に暮らす日本人は叩け。中国は、文化大革命の悪夢の時代に逆行する気なのか。
■ 国籍がバレるとやばい
昨年の取扱貨物量7・2億tと、いまや世界一の港湾に成長した上海港の発展に、大きく寄与したと地元で礼讃されている日系企業がある。広島県福山市に本社を置く常石造船だ。昨年の売上高は2351億円で、日本第2位の造船メーカーだ。
1917年に福山市で創業した常石造船が中国に進出したのは、01年のことだった。1億ドル以上を投資して、上海近郊の舟山に造船所を設立。本社から派遣された約80人の日本人社員が、5000人を超える中国人スタッフを雇って造船技術を指導している。模範企業として、地元政府から、何度も表彰を受けている。
10月11日晩、同社の4人の日本人駐在員と、一人の中国人社員の計5人が、上海一の観光名所「外灘」近くにオープンして間もない高級焼き鳥店「鳥真」で、ビールと串焼きをつまんでいた。上海で一番旨い焼き鳥店と評判の店で、近くには「100万ドルの夜景」と呼ばれる「外灘」が広がっている。
そんな夢うつつな晩餐のひと時を打ち破るような出来事が起こった。周囲で食事していた中国人男性のグループが酔った勢いで、「お前らは日本人か!」と絡んで来たのだ。
常石の中国人社員が間に入って応対した。だが悪酔いした中国人グループは、「お前ら日本鬼子はわが国の釣魚島を不当に占領しやがって!」などと毒づいて、ナイフを取り出し、中国人社員を斬りつけた。店にいた客たちがたちまち、「ワーッ」と沸いて野次馬と化した。店員が慌てて警察に通報したが、その間にも、日本人駐在員たちが殴る蹴るの暴行を受け、病院送りとなったのだった。
まさに、中国経済の発展に寄与してきた名門企業の日本人駐在員に、降って湧いたような災難だった。
■ 麺を頭からかけられた
この事件を、中国最大の国際ニュース紙『環球時報』が小さく報じると、中国のネット愛好者たちは、狂喜乱舞した。
〈そうか、日本製品を壊したりせずに、日本人を壊せばいいんだ!〉
〈よし、この勢いで釣魚島へ上陸だ!〉
だが、被害を受けているのは、常石の社員ばかりではない。9月のデモで1万7000人もの〝暴徒〟に取り囲まれた上海総領事館は、ホームページで次のような例を公開し、注意を喚起している。
○グループで深夜に食事をしていたところ、中国人に因縁をつけられ暴行を受けた。
○タクシーで移動中、不審なバイクの運転手からタクシーの運転手に「金を払うので、乗客を降ろせ」などの要求があった。
○複数名で歩道を歩いていたところ、中国人からペットボトルを投げつけられ、「ばかやろう」との罵声を受けた。
○複数名で歩道を歩いていたところ、中国人から「JAPANESE」と言われ、1名が 麺をかけられ怪我を負い、1名が眼鏡を割られ持ち去られた。
○歩道を歩いていたところ、中国人から「日本人か」と声をかけられ、突然、脚を数回蹴られ打撲傷を負った。
○歩道を歩いていたところ、向かってきた電動自転車の中国人に「JAPANESE」と言われ、炭酸飲料を頭にかけられた。
上海には戦前、25万人もの日本人が暮らしており、虹口区には、昔の日本家屋や神社、銭湯跡など、旧日本街が残っている。そしていまや当時に匹敵するほどの日本人が上海を行き交い、学生数3000人を数える上海の日本人学校は、海外で最大規模だ。
だが最近は、市内最大の繁華街「南京路」でさえ、日本人をすっかり見かけなくなった。
大手商社の上海駐在員が嘆いて言う。
「駐在員の家族たちは大方引き上げ、日本人駐在員用マンションは、〝男やもめ〟の館となりました。当の駐在員たちは、社の公用車に守られて、毎日自宅とオフィスを往復するだけの日々です。助っ人がほしいところですが、日本からの出張は全面自粛。本来なら新たに駐在しているはずの社員も、中国当局から嫌がらせを受けて就労ビザが下りないので、任期を終えた社員がイヤイヤながら滞在延長している始末です」
別の上海駐在の日系広告会社の日本人駐在員も語る。
「9月のデモ以降、取引先の中国企業を回っても、先方の社長たちが『急用ができた』などと口実をつけて会ってくれなくなったのです。それでも押しかけて行くと、いつもは愛想のいい受付の女性からして、『どちら様でしょう?』などとトボける始末です。いまや日系企業は、まるで疫病神のような扱いを受けているのです」
■ タクシーにも乗れない
日本人駐在員たちが戦々恐々としているのは、首都・北京でも同様だ。
先週、北京から一時帰国したばかりという建設メーカー幹部が憤る。
「私は青島に駐在していますが、北京で定宿にしている五つ星ホテルがあります。今回も宿泊の5日前にそのホテルに宿泊予約を入れておきました。ところが北京経由で帰国する前日にホテルへ着くと『予約は確かに承っているが、諸事情により外国人は泊められない』と言われたのです。私がホテルマンと言い争っている間に、アメリカ人がやって来ましたが、パスポートを見せるとルームキーを渡されていました」
この駐在員は、仕方なく別のホテルへ向かったが、その後、何軒回っても、日本のパスポートを見せた途端、宿泊拒否に遭ったという。
「もう呆れ果てましたが、夜遅くなったので、仕方なく北京空港まで行って、そこのソファで一夜を明かしました。驚いたのは、10人以上の日本人が、私と同じ目に遭って、空港で寝泊まりしていたのです」(同氏)
北京は、'08年のオリンピック開催時に、「文明都市宣言」を行い、世界中の一流ホテルを誘致。北京市政府は、「ホテルは5万床を突破し、どんなに混雑しても内外の賓客を歓待できる」と自負している。また、町の至る所に「厚徳 包容」(寛大)と記した「北京精神」の標語が貼ってある。これらは一体何なのか?
北京のホテルに関しては、日系銀行の駐在員も先日、不愉快な目に遭ったという。
「国際貿易センター近くの五つ星ホテルの入口でタクシーを待っていたら、ホテルのドアボーイが突然、『日本人か?』と聞いてきたのです。『そうだ』と答えたら、続けて『釣魚島は中国の領土と思うか?』と聞いてきました。私が『なぜそのような質問をするのだ?』と聞き返したら、『そう答えないとタクシーが乗せない』と言うのです。私が無言でいたら、ドアボーイはやって来たタクシーの運転手に対して、『この男は日本人だが、釣魚島は中国の領土だと言っているので乗せてやってくれ』と断りを入れていました。こういうのも一流ホテルのサービスと言うのでしょうか?」
北京では、日本大使館近くの「全日空」や「三菱東京UFJ銀行」など、日系企業のオフィスの巨大看板を黒幕で覆ったままの状態が続いている。
9月に一斉休業した北京市内の日本料理店は、徐々に再開し始めた。だが、「釣魚島は中国の領土です!」「釣魚島を防衛する愛国者の皆さんは2割引き!」などと書かれた看板を掲げている。そしてどの日本料理店にも、日本人客は皆無だ。
日系銀行の北京駐在員が続ける。
「9月以降、中華料理店に入るのは止めました。特に日本人同士で行って日本語を話すのは〝自殺行為〟です。同様に、日本料理店も避けていますが、どうしても日本食が食べたくなった場合は、絶対に信用できる店に事前に電話して、一人でも個室を予約します。そして無理に中国語で注文するようにしています。残念なのは、日本食レストランから日本メーカーのビールが消えたことです。注文する中国人がいなくなったのか、それともメニューに置いておくと店自体が危険なのか、おそらくその両方でしょう」
このように、いま中国では、「没有日貨」(NO日本製品)が合い言葉になっているのだ。
■ ありがたいと思え! と逆ギレ
北京でネット広告を手がける日本人駐在員が証言する。
「ニコンのイメージキャラクターを務めている台湾の人気アーティスト、王力宏が、自分の微博(ミニブログ)でニコンの新製品を宣伝したところ、『お前は日本鬼子の走狗か!』などという2万件を超す苦情が殺到したのです。資生堂のイメージキャラクターを務めている中国の国民的女優・孫儷も、同様の非難を浴びています。中国の有名人たちの間では、『日本と関わるとロクな目に遭わない』というコンセンサスができつつあります」
一方、製造業の多い広東省では、現地の日系企業において、中国人従業員とのトラブルが多くなってきているという。
香港に隣接した広東省深圳市で日系企業向けのビジネス会員誌を発行する加藤康夫氏が解説する。
「日系企業に勤める中国人社員からすれば、日系企業は薄給で残業が多い上に出世ができない。そのくせ中国語もできない定年前の日本人が、総経理(社長)としてふんぞり返っている。そうした不満が、今回の反日デモ以降、高まっていて、いわば『社内デモ』があちこちの企業で勃発しているのです」
深圳のある日系電気機器メーカーの日本人総経理が語る。
「わが社の中国人営業マンたちが、売り上げの1%ほどを、機器の売却先からキックバックして懐に入れているのは黙認していました。ところが9月のデモ以降、5%も取っていることが発覚したのです。私が叱りつけたら、中国人社員たちは逆ギレし、『このご時世に日系企業に勤めてやっているだけでありがたく思え!』と言うのです。顧問弁護士とも相談しましたが、営業マン全員に辞表を叩きつけられたら会社は潰れてしまうので、こちらが泣き寝入りするしかありませんでした」
広東省のある日本料理店の日本人店長も、やはり中国人従業員たちの「反逆」に遭ったという。
「9月のデモ以降、売り上げは3分の1以下に落ち込みました。そんな中、先日、夜の開店前に中国人の従業員たちが、何かコソコソやっているので問い詰めました。すると、偽醤油や偽ウイスキーなどを準備し、本物は自分たちが持ち帰っていたのです。私が『自分の目の黒いうちはそんなこと許さない』と怒鳴ったら、彼らはケロッとして言いました。『被害額100万元以下なら公安も見逃してくれるのに、なぜダメなんですか?』。結局、偽食品の提供は止めさせましたが、ショックは大きく、年内一杯で店を閉めようかとも思っています」
中国人の従業員問題で一番深刻なのは、日系企業に日本語の堪能な中国人従業員が就職しなくなるというリスクだろう。北京の大学で学生たちに日本語を教えるベテランの日本人教師が明かす。
「各大学の日本語学科で学ぶ学生の親たちが、『頼むから日系企業には就職しないでくれ』と自分の子供に頼むという現象が起こっています。このため学生たちは、『日本語に懸命に取り組んできた自分の4年間は何だったのか?』と悩み始めています。他の言語を専攻する学生たちからは、憐れみの眼差しで見られている。私自身、10年以上、北京で教えてきましたが、こんな逆境は初めてで、帰国しようかどうか迷っています」
広東省の北側に位置する湖南省の省都・長沙では、9月16日のデモで、大型ショッピングモールの平和堂が徹底的に破壊された。屋上に避難した悲惨な日本人駐在員たちを映した衝撃的なテレビ映像は、記憶に新しいだろう。
その平和堂では、破壊されて瓦礫の山と化した店舗の復旧作業が、急ピッチで進められている。
平和堂の社員が語る。
「9月には3店舗が被害を受け、被害総額は直営部分だけで5億円に上ります。日本人駐在員の身の安全の確保が第一なので、危険な賃貸マンションを出て、中国人の偽名を使って長沙市内のホテルに泊まるなど、本当に悪夢の日々でした。3店舗合わせて、何とか今年中に再開を果たしたいと思っています」
■ ビール瓶で殴り殺された
山東省青島の工場が破壊されたパナソニックでも、復旧作業が行われている。中国事業を統括する同社の幹部社員が語る。
「'08年5月に来日した胡錦濤主席がわざわざ大阪の本社を訪問し、『松下幸之助さんの支持は永遠に忘れることができない。中国の発展に尽くしていただき、ありがとうございます』と言って頭を下げたのです。それがいまや、『松下は出て行け』ですから、開いた口が塞がりません。
中国には8ヵ所の大型工場があり、1000人以上の日本人駐在員を派遣しています。中国でグループ全体の売り上げの約2割を叩き出しているので、そう簡単に撤退はできません。しかし今後は、ベトナムやミャンマー工場の比率を上げていくことになるでしょう」
中国全土では、9月のような大規模なデモこそなくなったが、相変わらず極端な「反日運動」が各地で展開されている。
海南省万寧市では、酒場で「中日戦争が起これば日本が勝つだろう」と言った25歳の青年に対して、居合わせた36歳の男がビール瓶で頭を殴打し殺してしまうという事件が起こった。
東シナ海に面した浙江省温州市では、6歳の息子を教育するため、「釣魚島は中国の領土だ!」と叫んで、橋の上から50m下の河へ飛び込んだ父親が話題を呼んだ。この父親の「愛国教育」をめぐって、賛否両論が飛び交っているのだ。
江蘇省南京市では、現地の富豪が、日本車を壊された43人の所有者に対して、中国メーカー「吉利」の乗用車をプレゼントした。1台約160万円で、合計約7000万円の出費である。ちなみに「吉利」は、スウェーデンの自動車メーカー「ボルボ」を買収したことで知られ、中国の愛国者としては溜飲が下がるのである。
中国全土で展開されるこうした日本人いじめ、一体いつまで続くのか。
一昔前まで「ゴールドラッシュ」と言われた中国ビジネスは、いまや世界最低最悪と化してしまった。いまの中国は明らかに異常だ。
第2部 中国の強みは安い労働力と広大な市場 日本の先端技術はまだまだすごい
中国が仕掛ける日本への「経済封鎖」 最後に困るのはどっちだ?
source : 2012.11.01 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
「1ヵ月後の指導者の交代を機に、中国は新たな経済制裁を発動するかもしれない」。中国ビジネスに携わる日本企業の共通認識だ。数兆円にも上る経済的損害に、日本は耐えられるのだろうか。
■ 本当にずるいやり方
「世界のほとんどの国は平和主義であるのに、日本とアメリカは常にトラブルメーカーじゃないか!」
「日本に対していますぐ経済制裁を実施せよ!」
中国最大の国際情報紙『環球時報』のウェブサイトには、怒れる中国人による反日感情剥き出しの意見が次々に書き込まれている。日本が尖閣諸島を国有化してから1ヵ月が経ってもなお、中国人の反日熱は冷める気配を一向に見せない。
中国外交部の洪磊副報道局長は、そんな中国人民の怒りを煽るかのように「問題を大きくした責任は日本にある」と繰り返し、そして今後中国が・対抗措置・を取る可能性を示唆している。
周知の通り、中国はすでに日本に対する「経済制裁」をいくつも実施している。それは最も軽いところから始まっており、日本の輸出入品に対する貨物検査率の引き上げや日本製品の不買運動などが公然と行われている。ソフトブレーンの創始者で、現在北京に在住する宋文洲氏がその実態についてこう明かす。
「貨物検査率の引き上げによって通関に影響が出始めているため、モノが市場に流通する動きが遅くなっています。これが日系企業に深刻なダメージを与えています。日本からの部品や材料が予定通りに入ってこないため、中国の工場では生産のスケジュールが立たなくなっているのです。
さらにはワーキングビザを発行するスピードが遅くなっている、とも聞きます。ヒト、モノの流れが大変遅くなっているので、今後日系企業の活動に抜き差しならない影響を与えていくと思われます」
不買運動も日系企業の頭痛のタネとなっている。ネットを中心に広まる「不買運動」は、反日暴動が収まったいまでも、とどまるところを知らない。現在中国国内では「この日本企業の商品は買ってはいけない」という〝不買リスト〟が出回っており、ソニー、キヤノン、資生堂、武田薬品などの名前があがっているという。
「特にアサヒビールやパナソニック、第一三共などの企業のイメージは中国国内では最悪です。8月下旬、これらの企業が『釣魚島に日本人を上陸させる計画の資金的援助をしている』『右翼組織に献金している』という報道が中国内で流れたからです。もちろんこうした報道に根拠はないのですが、一度ネガティブな報道がなされれば、ネットを通じていつまでも拡散することになるので、これらの企業は今後中国で苦戦するでしょう」(在中国日系メーカー社員)
さらには中国中央テレビをはじめとしたメディアで、日系企業の広告や特集番組・記事などを流さない、という一種のボイコットも起こっているという。中国は国をあげて日系企業のブランドイメージを低下させようと躍起になっているのだ。
中国国内だけではない。日本の観光業のダメージも深刻だ。昨年、日本には100万人以上の中国人観光客が訪れ、約2000億円を日本に落としている。しかし、JPモルガン・チェースの試算では、尖閣問題の影響で'12年に日本を訪れる中国人観光客は昨年比で70%も減少し、日本の観光収入は670億円減少するとなっている。
「日本航空にはこの9月から11月だけで、約2万1000人の団体客のキャンセルが、全日空においては同期間で約4万6000席のキャンセルが出て大打撃を受けたため、中国路線の便数を減らすなどの対応を迫られています。さらに9月に富士山を訪れた中国人の数が通常より90%も減ったという話もあります。北海道から沖縄まで、日本の観光業はあまねく被害を受けています」(大手旅行代理店関係者)
検査率の引き上げ、不買運動、そして訪日自粛。こうした「制裁」だけで、日本のGDPは1兆円程度下がるとの試算もある。中国は「真綿で日本経済の首を絞める」つもりなのだ。
だが、この程度の「制裁」では、中国人民の溜飲は下がらないようである。ネット上では「中国政府はなぜ弱腰なのか。震災で弱りきった日本経済を壊滅させることぐらいはできるはずだ」と、政府の姿勢を批判する声まで出てきているのだ。
そして実際に中国が〝次の一手〟を打つ恐れは大いにある。信州大学経済学部の真壁昭夫教授は、11月に中国で指導者が交代した後、中国の新指導者たちは国民の対日強硬論を抑えきれず、さらなる経済制裁を実行するのではないか、と指摘する。
「次期指導者となる習近平は、中国の国民に『お坊ちゃま』という印象をもたれているため、〝強いリーダー〟というイメージを作り出す必要があるのです。そして、その演出をするための絶好のターゲットが日本なのです。11月以降、中国がさらに強気な姿勢で日本に経済制裁をしかけてくる可能性は十分にあります」
さらに、中国在住の日本人ジャーナリストがこう付け加える。
「習近平は台湾に近い福建省を統治した経験から、台湾に太いパイプを持っている。そのため、部品や原材料などは日本ではなく、台湾からの調達で賄おうとする可能性があります。最初はこうした・日本外し・で攻めて、次第にその攻撃の手を強めていくのではないでしょうか」
■ ユニクロが危ない
仮に中国が日本との経済関係を一切断つと決めた場合、いったい日本経済にはどれだけの影響があるのだろうか。
昨年の対中貿易額は、日本の貿易額全体の21%、3450億ドルに達している。さらに中国に進出している日系企業は2万5000社を突破している。日本の「対中依存度」は、著しく高い。
個別の「対中依存度」をみても、日本企業がいかに中国に首根っこを押さえられているかがわかる。たとえば日産、ホンダ、パナソニックの中国での売り上げは、全体の10%を超えている。前出の真壁氏が補足する。
「自動車などの日本製品に対する不買運動が起こっていることは周知の通りですが、日本企業の中には中国での販売の急速な落ち込みから、生産調整を始めているところもあります。一方の中国は現在供給過剰になっていますし、今後はさらに日本からの輸入を減らす動きが、必然的に起こるでしょう。そうなれば日本の企業は苦境を迎えることになる」
もしも中国が「対日経済封鎖」を決め、国内から日系企業を完全に閉め出し、日本との輸出入をストップしたら---。'11年度の日本の対中輸出額は約1600億ドル。単純に考えても約12兆円が失われてしまうことになる。
「中国市場の売り上げ比率が高いコマツ、パナソニック、日立、日産などの大手企業、百貨店やコンビニなどは相当な打撃を受けることになるでしょう」(真壁氏)
売り上げだけではない。部品や原材料などを中国で生産している企業、たとえば100円ショップや製薬会社は、製品の根幹部分を調達できなくなってしまう。
最も大きな損害を被る代表例はユニクロだろう、と前出の経済部記者は推測する。
「売上高1兆円を目指すユニクロは、公表こそしていないが、ヒートテックやウルトラライトダウンをはじめとする製品のほとんどすべてを中国で生産しています。急速なスピードで世界展開を進めているユニクロですが、もし中国から排除されれば、そもそも『売るものがない』状態になってしまいます。そうなれば今後営業活動を続けることは不可能になります」
中国で反日暴動が起こったとき、店頭に「支持釣魚島是中国固有領土」(尖閣は中国のもの)という紙を貼ったり、逆風の吹く中で、あえて9月下旬に上海店をオープンさせたりといった行動に出たのは、ユニクロが中国なしでは成り立たないということの証左なのである。このように、中国に「命綱」を握られている企業は、経済封鎖が行われれば一瞬で「生命停止」となってしまうのだ。
やはり、勢いで勝る中国と「経済戦争」を戦えば、日本は完膚なきまでに叩きのめされてしまうのだろうか。
だが、中国経済に精通する専門家の間からは、「中国にとって対日経済制裁は諸刃の剣。むしろ中国の方が大きな経済的損害を被るのではないか」との声が聞こえてくる。ビジネス・ブレークスルー大学教授で、中国経済に詳しいエコノミストの田代秀敏氏は、「中国には日本企業を追い出す、という選択肢はとれないはずだ」として、その理由を次のように説明する。
「2011年の中国の輸出額は1兆8986億ドル。これは世界一の数字だが、中身を分析してみると、うち52%の9953億ドルは、中国国内にある外資系企業関連の輸出によるものです。この数字をみれば中国がいかに外資に頼っている国かがよくわかるでしょう。しかも中国でまともに法人税を払っているのは外資系企業です。
こうした状況下で日系企業を追い出せば、生産面でも雇用面でも中国側が受けるダメージは非常に大きいはずです」
田代氏は続けて、「中国は日本の技術を欲しているため、そう簡単に・日本切り・などできるはずがない」とも指摘する。
「日本企業にとって中国の魅力は、発達した産業インフラと広大な市場。一方の中国は、『世界の工場』とは言われるものの、やはり技術的にはまだまだ未熟なのです。中国がいま特に欲しがっているのは、日本の中小企業が持つ技術です。図面を入手しても、その通りに製品を作るには熟練した職人の技術が必要です。その点では日本の方にアドバンテージがあるのです」
共産党が倒される
中国情勢に詳しいジャーナリストの富坂聰氏も、中国の対応に世界の視線が注がれているいま、経済強硬策をとれば世界が中国を見放すだろう、と指摘する。
「今後中国は、中国に進出している日本企業のうち、あまり中国に利益を還元していない企業に対して、税の徴収を強化する、あるいは工場を造る際の設置基準を厳しくするなどの措置を執ることは考えられる。しかし、あまりに締め付けを厳しくすると、欧米諸国が『チャイナリスク』を強く意識するようになり、中国への投資に慎重になってしまいます。それは中国にとって大きなマイナスです」
実は、水面下で始まっている「日中経済戦争」において、日本はすでに勝利を収めている、という見方もある。毎月中国を訪れ、各地を取材して回っているジャーナリストの宮崎正弘氏はこう指摘する。
「中国での日本製品不買運動や訪日観光客減ばかりが報じられているが、訪中する日本人も急速に減っており、北京や上海で流行っていたナイトクラブも、上客だった日本人が来なくなったので、閉店が相次いでいます。また日本の投資家が、中国株の投資信託を次々と解約しており、9月だけでも300億円近くが解約されたといいます。中国経済のひとつの指標となる『上海総合指数』は、今年9月に2000ポイントを一時下回りました。これは5年前の3分の1以下で、いかに中国経済が疲弊しているかを物語っている。その上日本からの投資が鈍れば、中国の経済はさらに減速してしまうでしょう」
10月18日に中国国家統計局が発表した7~9月期のGDPは、前年同期比で7・4%。成長率は7四半期連続で低下の一途を辿っている。長期的な景気減速に直面している中国のホンネは、「これ以上マイナス要因を増やしたくない」というところだろう。
宮崎氏はさらに、「日系企業が現地で多くの中国人を雇用しているという重大な事実を見逃してはいけない」と指摘する。
「日本企業が雇用している中国人は1000万人以上、下請けなどの間接雇用も含めれば、3000万人から5000万人ともいわれるが、この半分でも失業したら、中国の治安は大混乱に陥るでしょう。その不満は日本に向かうのではなく、中国政府に向かいます。そうなれば中国の政権は倒れることになる。確かにやせ我慢をすれば、経済的な面では日本を排除することが可能かもしれない。しかし、その結果体制が揺らぐようなことに繋がるのなら、結果的には中国が受けるダメージのほうが大きいでしょう」(宮崎氏)
国内の不満を収めようと日本企業を痛めつければ、今度は別の不満が噴出する。中国政府は、深刻なジレンマを抱えているのである。
もし熾烈な日中経済戦争が起これば、それは「勝者なき戦い」となるだろう。中国経済の専門紙『中国経済新聞』は10月15日、「対日経済制裁は中国の利益にならない」と題した社説を掲載したが、はたして中国の指導者たちはこうした冷静な声を受け止めることができるのだろうか。
第3部 不正資金は年間50兆円 本当の人口は16億人 突然、公開処刑の招待状が届く
あまりにも奇妙な国 中国の正体
日本人よ、もう覚悟したほうがいい 中国は本気だ
source : 2012.11.02 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■ 流行語は「全民腐敗」
「長年にわたって職権を乱用して殺人に絡み、巨額の賄賂や財宝を受け取り、多数の女性と不当な性関係を持ち、勝手な人事を横行させ、党と人民に重大な損失を与えた・・・・・・」
これは、9月28日に公表された、薄熙来・前重慶市党委書記の〝数々の悪行〟に関する
『審査報告書』の記述だ。
薄熙来前書記は、共産党「トップ25」の一人という権力者だっただけに、まさにやりたい放題。一説によると、腐敗総額は邦貨にして8000億円! 愛人列伝も、女優、テレビキャスター、モデル・・・・・・と、名前が挙がっているだけでざっと50名に上る。薄書記がテレビを見て、「あの女がいい」と子飼いの富豪に漏らすと、その美女はすぐさま薄書記の「一夜妻」として捧げられたという。もし拒否すると、渤海湾に沈められることになる。ちなみにこの共犯の富豪も、3月に御用となった。
だが薄書記の「ご乱行」など氷山の一角の一角に過ぎない。中国では「全民腐敗」が流行語となるほどに、上から下まで〝ミニ薄熙来化〟が進んでいるからだ。
「これでは国が滅んでしまう!」
'07年9月に、憂国の士・温家宝首相の肝煎りで、国家予防腐敗局なる官庁が設立され、全国各地に支部も設置された。局長は、中国版のマルサ出身のコワモテ馬馼女史。「わが国の不正資金の総額は年間4兆元(約50兆円)にも上る」として、徹底した腐敗撲滅を宣言した。
こんな中央官庁が成立してしまう国は、世界広しといえども中国くらいだろう。だがいまや、国家予防腐敗局員自身の腐敗疑惑がネット上で暴露されたりして、この貴重な官庁の屋台骨が揺らいでいる。
そんな中央官庁では、昨年からようやく「三公」(公用車費、接待費、海外出張費)の一部公表を始めた。そもそもこの制度が始まった原因は、首都・北京の大渋滞だった。
一昨年暮れ、北京はついに、一日あたりの新車増加台数が5000台を突破した。街中の大通りから路地裏まで車だらけ。レストランを予約する際には、まず駐車場を予約しないと行き着けない。困った市民らが空きスペースの多い学校内に平気で停め出したため、学校の敷地内の交通事故が急増して社会問題になった。
また市内ばかりか、京蔵高速道路の北京と内モンゴル自治区オルドスの間は、わずか200kmの距離を進むのに20日間(!)もかかるという世紀の大渋滞に直面した。毎時数センチずつ進むため運転手は夜も眠れず、高速道路の両脇は汚物の山と化した。この責任を巡っても、北京市と内モンゴル自治区で激しいバトルとなった。
北京市当局はまた、市内の渋滞は、市民のマイカーブームのせいだと言い訳した。だが、市民派の一女性弁護士が、10万台にも上る幹部の公用車が原因であることを暴露し、市民の怒りが爆発した。
それで中央官庁は「三公」の公表を始めたのだったが、歴代の副部長(副大臣)以上全員に生涯、公用車と秘書を与えるといった手厚い幹部優遇策が続いているため、渋滞は一向に解消されない。
■ 免許証もカネで買えます
腐敗と並んで横行しているのが、偽物である。
今年4月に、中国中央テレビの正義感溢れるディレクターが、「北京市内で市販されているカプセル薬のカプセルは、廃棄された靴のゴムを原料にしている」という暴露番組を流し、首都がパニックになった。市政府は中央テレビに圧力をかけ、このディレクターをクビにしたが、市民の怒りで一斉調査をせざるを得なくなった。すると「古靴カプセル」の製造は、北京どころか全国各地で〝日常化〟していることが発覚したのだった。まさに薬を飲んで病を得る構図だ。
他にも、〝江蘇省名物〟爆発スイカは日本でもすっかり有名になったが、1ヵ月で太るブタの肉や10秒で育つモヤシなど、にわかには信じられない食品が平然と売られている。実に中国の化学(薬品)の進歩には目を見張るものがある。
化学薬品を使っていなくても、汚物をこねた月餅(これぞ有機月餅?)や腐った肉を使った北京ダックなどが、堂々と売られて問題化した。「地溝油」と呼ばれる下水の汚水油を、料理油として出荷している業者は、全国に300万人もいると言われている。汚水醤油や汚水酢など、何でもござれだ。
広東省の大手石灰工場は、石灰の汚水を「ミルクティ」として市販していた。乳幼児の結石患者を多数生んだ河北省の「毒粉ミルク」工場は、問題が表面化しても平然と〝生産〟していた。
先日、北京市でマオタイ酒の一斉調査を行ったところ、マオタイ工場の全出荷量の20倍もが市販されていた。このため、中国人が海外旅行する際、最も喜ばれる土産は、海外に流出した本物のマオタイ酒という珍現象が起こっている。
日本では東京駅が装いを新たにして話題を呼んでいるが、北京駅も昨秋、改装した。駅前広場を封鎖し、「愛国、創新、包容、厚徳」という「北京精神」の巨大看板を掲げたのだ。
誰も読まないこの〝広告塔〟設置のために、駅前広場で大事な〝商い〟をしていた人々が移動を余儀なくされた。
例えば、どんな領収書でも額面の1割払えば偽造してくれる「領収書屋」。不可思議な地図を売る「偽地図売り」。200元(約2500円)で買春させてくれるオバサン娼婦・・・・・・。
中国の鉄道全線の切符も、昨年6月より実名制(購入時に身分証を提示し切符に実名が印刷される)になった。あまりに偽切符が跋扈し、同じ指定席に10人もが座ろうとするといったトラブルが続発したためだ。
ちなみに鉄道業務を統轄していた劉志軍鉄道相も昨年、汚職で逮捕された。邦貨にして100億円近く不正蓄財していたとされる。さらにこうした脱税を摘発していた北京市の王紀平税務局長も、昨年秋に多額の収賄と愛人問題でブタ箱に入った。
身分証と言えば、年間1800万台も新車が売れる社会だけに、運転免許を取る中国人が急増しているが、偽免許証も溢れている。自動車教習所の隣に「1時間で免許証作ります」などと書いた店ができ、摘発されたりしている。他にも偽学生証、偽卒業証書、偽就業証に偽営業許可証など、まさに偽物天国だ。
中国のセブン—イレブンで買い物をすると、客が出した札をまずは偽札鑑別器にかける。数年前は100元(約1250円)札のみだったが、いまや50元札や、場合によっては20元札まで鑑別器にかける。それくらい相互不信社会になった。
偽物を作るのは、一部の悪徳業者ばかりとは限らない。お上の「偽発表」も絶えないのだ。例えば、地方政府の「GDP水増し発表」が常態化したため、いまでは中央の国家統計局が、独自に地方の統計を集計している。その国家統計局では昨年、二人の幹部が、「GDP統計を発表前に民間金融機関に流し多額の賄賂を受け取っていた」として、摘発された。
お上の「偽発表」の最たるものと言えば、人口統計だろう。中国は一昨年秋、大々的にキャンペーンを行い、全国人口調査を実施した。その結果が昨年4月に発表され、中国の総人口は、13億3972万4852人とされた。
ところが中国は、18桁の身分証明書番号で公安局が国民を厳格に管理しているため、そもそも人口調査など必要ないのである。公安局関係者によれば、すでに中国の人口は、16億人に迫っているとか。人口が分かっていてわざわざ人口調査を実施するのは、少なめの人口を内外に発表するためだという。
中国では人口5000人以上の漢族以外を「少数民族」と規定しているが、四川省、雲南省、チベット自治区、新疆ウイグル自治区などでは、「未調査」の民族がまだまだ存在している可能性があるという。'08年5月の四川大地震でも、死者約9万人と発表されたが、実際は「未知の少数民族も含めれば、10万人を超えていた」と漏らした当局者もいた。
■ 日本人駐在員が続々死亡
中国は、偽食品などの犯罪を容認しているわけではもちろんない。むしろ中国の刑法は大変厳格で、全452条から成る分厚い刑法を繙くと、「死刑」のオンパレードだ。実際、中国は世界最多(ただし北朝鮮は不明)の年間約3000人も処刑している。処刑は毒殺、絞殺、銃殺など受刑者の好みで選択できるが、銃殺の場合は弾代の請求が遺族に回ってくるという。
現在では、処刑の1時間前に「最後の一服」としてタバコをサービスするようになった。だがひと昔前までは、サッカースタジアムなどで、見せしめのための派手な公開処刑が一般的に行われていた。そして処刑の1時間前には、死刑囚が衆人環視の中で、中国中央テレビの・独占インタビュー・を受ける習慣があった。中央テレビのアナウンサーは、まるでスポーツのヒーローインタビューよろしく、「いまの気持ちをお聞かせください」「この気持ちを誰に伝えたいですか」などと、矢継ぎ早に聞いていく。
この公開処刑の「招待状」は、日系企業にも送られてきた。「招待状」が届いたら、仕事をスッポかしてでもスタジアムへ向かわないと、当局のコワ~いペナルティが待ち受けている。
このように日系企業は、日本では思いも寄らない多種多様な「賦役」をお上から課せられる。所轄でない隣町の税務署が突然、不当な税金を取り立てに押しかけて来たり、町の労働組合なる団体が社員給与の2%を請求に来たりする。不肖の息子の就職を押しつけてくる役人もいる。
中国では店舗一つ開くにも、計10機関ものお上のハンコが必要だ。その上、すべての「店名」も許可制である。昨秋、ある日系企業が北京で美容院を開こうとしたが、10回近く申請しても、漢字と英語交じりのオシャレな店名が許可されず、頭に来て代表者が自分の名前を店名欄にも漢字で書いたら許可されたというウソのような実話もある。
こうした面倒を回避するには、やはり賄賂が有用で、商社などは、「中国の特色ある消費税」と称して、5~10%くらいを賄賂用に積み立てているほどだ。
こうした苦労が絶えないことから、日本人は自殺や白酒の一気飲みによる心臓麻痺などで、年間100人以上、中国で死亡している。中国駐在は命がけなのだ。
そんな日本人のストレスを見透かしたように、このほど北京の不動産業者が、日本人単身赴任者向けに、「美女付き賃貸マンション」のサービスを始めたところ、大ヒットしている。家具付きの部屋に足を踏み入れると、タンスから美女が「熱烈歓迎!」と飛び出してきて「24時間サービス」を提供してくれるとか。
だが美女にハマった二人の大手日系銀行職員が、このほど摘発されて国外追放処分になった。中国は甘ったるい国ではないのである。
第4部 当然のことながら、この島は日本固有の領土でした
極秘 CIA文書で報告された「尖閣の歴史」
source : 2012.11.03 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
〈このレポートは、米国の国家防衛に影響を与える情報を含んでいる。許可されていないものへの伝達や内容の暴露、あるいは、許可されていないものがそれを受け取ることは法律によって禁止されている〉
物々しい警告が表紙に書かれた、36ページの文書。これは、アメリカの情報機関・CIA(中央情報局)が1971年5月に作成した、尖閣諸島の領有権について分析した極秘レポートだ。
『尖閣諸島の紛争』と題されたこのレポートでは、歴史的資料や背景を検討した上で、「尖閣は日本のものか、中国のものか」が論じられている。本誌は、通常では閲覧できないこのレポートを、アメリカのある研究機関を通じて入手した。
〈一般的には日本が所有するものだと受け止められてきた、東シナ海にある小島群・尖閣諸島について、北京は1970年12月、『中国の神聖なる領土の一部である』と主張した。同時に中国共産党は、その地域でアメリカのオイル・メジャーが石油を採掘することは、中国領土への侵犯になると宣言した〉
こうした前文で始まるこのレポートでは、尖閣問題はどのように検証されているのか。尖閣の領有権に国際的な関心が高まっているいま、アメリカが歴史的に尖閣をどう見ていたかを知ることは重要である。その要所を抽出していこう。
〈中国人の中には、尖閣諸島が1403年の明朝の文献の中で触れられていると主張するものがいる。しかし、琉球諸島への日本のかかわりは、1166年頃、沖縄の最初の王が誕生した年からである〉
〈1969年、日本政府は東海大学の新野教授を代表とした、尖閣諸島付近の海底地質調査を支援した。そして日本政府は、新野氏らの調査で尖閣諸島近くの大陸棚に石油埋蔵の可能性があるという発表をした。中華民国がこの地域について正式に日本の統治権に抗議するかもしれないと最初にほのめかしたのは1970年7月20日だ〉
このように、レポートではまず「台湾と中国が突然領有権を主張した」旨を明記している。CIAの元分析官で、現在ヘリテージ財団でアジア調査を担当するブルース・クリンガー氏が、このレポートが作成された背景について解説する。
「私はこのレポートの作成には関わっていませんが、推測すると当時のニクソン政権が、突然の中国の主張にどれぐらいの理があるのかを知るために、CIAに尖閣問題の調査を依頼したのでしょう。私は20年間CIAの分析部に所属していましたが、こうした調査依頼が政府からCIAに来ることはかなり稀です。それほど当時のアメリカのリーダーたちが、尖閣の問題について関心を持っていたということでしょう」
■ 決定的な証拠
中国が突然尖閣の領有権を主張したことは、今となっては当たり前の認識となっている。このレポートで最も注目すべきは、中国共産党が紅衛兵(文化大革命を支えた若者たち)向けに作った地図などに、尖閣が「中国領」と記されていないという重要な事実を指摘している点だ。レポートにはこう綴られている。
〈日本の地図だけでなく、北京と台北で出版された地図もまた、日本の主張を強く裏付けている。
文化大革命の時、北京で出版された「紅衛兵地図」(Red Guard Atlas)には、中国が管理している地域の地図が記されている。この地図は、尖閣諸島が位置する海域は、中国の境界の向こう側であることを明確に示している。また、その地図は琉球諸島は日本のものであることも指摘している。そして同様のことは、'67年に北京で出版された「中国地図」(Atlas of China)の一般版にも見られる。検討したどの中国の地図も、尖閣諸島海域が中国国境内にあることを示してはいない〉
こうした資料を根拠とした上で、CIAレポートは、
〈もし尖閣諸島の統治権が、国際的判断によって日本側に承認されたら、中国は日本にはるかに有利になる境界線を受け入れなければならない立場におかれるだろう。尖閣諸島統治権の日本の主張は強く、その所有権の証明責任は中国側に課せられているように思われる〉
と、尖閣諸島の問題は日本が大変有利な立場にあると結論付けているのだ。やはりアメリカも「尖閣は日本のものである」と認識していた、ということだ。'71年6月、ニクソン大統領は沖縄返還に関連して、尖閣諸島の施政権も日本に返還することを決断している。このレポートが作成されたのはその1ヵ月前。おそらく大統領が決断する際の判断材料のひとつとなったのではないだろうか。
前出の元CIA分析官のクリンガー氏は、このレポートの価値について、次のように話す。
「アメリカ政府はこれまで尖閣諸島について、日中のどちらかを明確に支持したことはありません。このCIAレポートが発見されたからといって、現在のアメリカの姿勢が変わることはないでしょう。ただ、領有権を明確に示したい今の日本にとっては貴重な資料となるかもしれません」
むしろ、米政府ではなく、日本がこうした資料をどう有効に使うかが重要ではないか、ということだ。
しかし、拓殖大学国際学部教授で、領土問題に詳しい下條正男氏は、現在の民主党政権では、こうした資料を有効活用することはできないだろうと嘆息する。
「アメリカあるいは日本などでどれほど貴重な資料が発見されようと、それを有効に利用できる政治家がいなければ、まったく意味を成しません。CIAのレポートが発見されても、いまの民主党政権はそれを有効に活用することなどできないでしょう。それどころか党内融和のために、今月の16日には外交オンチの鳩山由紀夫元首相を最高顧問に復帰させてしまった。これでは中国や韓国に『尖閣も竹島も譲歩します』というメッセージを発信しているようなものです」
政府からはこの資料を活用しようという声は聞こえてこない。せっかくの「宝」を腐らせてしまうような政権に、尖閣問題の解決など期待できそうもない。
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