source : 2012.11.14 Reuters.co.jp (ボタンクリックで引用記事が開閉)
現在、底堅く推移している韓国ウォンだが、筆者はその先行きに対して慎重な見方を持っている。なぜなら、たとえ韓国の格付けが相対的に高い水準にあるとしても、ウォンが市場のリスク回避姿勢に対して脆弱と考えられるからだ。
その理由を説明するためには、まず春先以降のウォン相場の動きとその背景要因を押さえておく必要がある。
韓国景気が春先から減速感を強めるなか、北朝鮮が4月に「人工衛星」を打ち上げたことで地政学的リスクも高まり、ウォンは4月初めの1ドル=1120近辺から5月下旬に1180近辺まで下落した。しかし、6月に入ると上昇基調に転じ、11月14日午前11時現在1ドル=1080台後半と、ギリシャ債務危機が本格化する前の2011年9月中旬以来のウォン高水準で推移している。
韓国の輸出企業500社を対象に実施した大韓商工会議所の調査によれば、6割弱の企業でウォン高による被害が発生しているという(調査対象企業の輸出採算レートは平均1ドル=1086ウォン)。また、同会議所はウォン高による輸出採算性の悪化が韓国経済を脅かすとも警告している。韓国景気の減速に加えて、韓国中銀が7月と10月に2度の利下げを実施したにもかかわらず、ウォンが輸出採算レート近辺まで上昇している点は注目に値するだろう。
ウォンがここまで上昇した背景の一つに韓国国債の格上げがある。欧米系主要格付け会社3社は8月下旬から9月中旬にかけて韓国債の格付けを相次いで引き上げた。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月27日、韓国の外貨及び自国通貨建て長期債務の格付けを「A1」から「Aa3」に1段階引き上げた。「Aa3」は最上位から4番目でマレーシアの「A3」より高く、日本や台湾、中国と同水準。依然としてBクラスにとどまるインドネシア、フィリピン、タイと比べると韓国の信用格付けが一段高い水準にあることがわかる。
また、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は10月下旬、欧州の景気低迷と住宅不況で打撃を受ける恐れがあるとしてフランスの金融機関3社を格下げした。スペインやイタリアといったユーロ圏の高債務国だけでなく主要国ですら信用リスクが高まりつつある状況のなかで、韓国の格付けが日本と同水準に格上げされたことで、先進国を中心に韓国への資本流入が拡大した。
韓国中銀が利下げに対して慎重な姿勢を続けているのもウォンを下支えしている。同中銀は7月に25ベーシスポイント(bp)の利下げに踏み切ったものの、それまでは景気減速にもかかわらず利下げを見送ってきた経緯がある。11月9日に開催された中銀会合の声明でも「(韓国景気の)低成長は続いているが、最近は景気の落ち込みが緩やかになっている」と指摘し、政策金利を2.75%で据え置いた。金総裁は政策金利が適正水準から遠くないと発言し、追加利下げには慎重な姿勢を示し続けている。
日本銀行や米連邦準備理事会(FRB)は共に政策金利を事実上ゼロに固定化し、量的緩和の拡大を継続。ECBは政策金利を0.75%としているが、ドラギECB総裁がインフレリスクの後退を指摘しているように利下げに含みを持たせるなど、先進国は当面、超低金利が続く見通しとなっている。こうしたなか、たとえ景気が減速し、政策金利が3%を下回る水準であっても、格付けが比較的高く、利下げペースが緩やかなものであれば、超低金利状態の先進国にとって、韓国は魅力的な投資先の一つに思えるのも不思議ではない。
■ウォンの脆弱性の背景にあるもの
確かに、韓国の格付けの高さや中央銀行の利下げに対する慎重な姿勢は今後も短期間で変わるものではない。それらが韓国への資本流入を促すのであれば、結果としてウォンの底堅さも続くと考えるのが自然だろう。しかし、市場のリスク回避姿勢に対して脆弱であるという韓国ウォンの特性を考えると、そうとは思えない状況が整いつつある。
実際、投資家の不安心理を映すとされるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー(VIX)指数が上昇すると、市場のリスク回避姿勢が強まり、対ドルでのウォン安が進行する傾向にある。たとえば、世界的な金融不安が高まった08年10月にVIX指数は20台から80台まで急伸したが、ウォンは対ドルで50%下落した。
ウォンの脆弱性の背景には、韓国の対外債務に占める短期債務の比率の高さが挙げられる。今年6月末の韓国対外債務は4186億ドルと過去最高水準だが、うち短期債務は1414億ドルと対外債務の33.8%を占める。これは同じアジア圏に属するインド(23.0%)やインドネシア(17.0%)に比べても高い。
韓国の場合、外貨借り入れの主体は民間銀行で、外貨建て預貸率は300%超と中国(約200%)や日本(約100%)に比べ高く、市場のリスク回避姿勢が強まり韓国の対外短期債務が急速に引き上げられると韓国の民間銀行はウォン売りによって外貨を調達する必要性が高まる。
上述したように08年の世界金融不安の際にウォンは大きく下落したが、この時は韓国中銀がFRBと結んだドルスワップ協定によって米ドルを調達することで流動性危機を抑え込んだ。
現在、韓国中銀とFRBが締結したドルスワップ協定は失効したままであり、また日韓スワップ協定は先月末に拡充措置が終了し限度額が700億ドルから130億ドルに縮小している。08年当時のように対外短期債務の回収ペースが高まると、ウォンへの下押し圧力は急速に強まる可能性がある。
■韓国の外貨準備に潜む構造問題
韓国の外貨準備の多くが流動性の低い証券で運用されている点も、ウォンの脆弱性を高めている。
通常、外貨準備は緊急時に備えて米国債といった流動性が高いもので運用される。たとえば、日本の場合は、外貨準備(約1.27兆ドル)のうち1.18兆ドル程度が米国債であると言われている。一方、韓国中銀の年次報告(2011年版)によると、韓国の外貨準備のうち流動性資金と分類される資産は全体の4.5%に過ぎず、残りは収益性資産が79.7%、委託資産が15.8%となっている。
商品別に見ると韓国の外貨準備のうち預金に分類される資産は全体の6.6%、政府債は36.8%となっており、政府機関債、社債、資産担保証券(ABS)、株式といった流動性の低い資産が外貨準備の過半を占めている。韓国の外貨準備は3234.6億ドルと世界第7位の規模に達しているが、流動性危機が生じた際に転用できる外貨準備はせいぜい4割程度と考えられ、ウォン売りの流れを食い止めるには十分とはいえない。
ユーロ圏ではギリシャ、スペインを中心とした債務問題に加え、これまで底堅く推移してきたドイツも含め景気悪化懸念が強まりつつある。米国では、いわゆる「財政の崖」問題をめぐりオバマ大統領と議会との交渉が難航するとの見通しが強まっている。これを受けてムーディーズは、連邦債務の中期的な安定・削減策で政策当局者が合意できなければ、最上位の「Aaa」としている米国債の格付けを1段階引き下げる可能性もあると警告した。
今後、市場のリスク回避姿勢がさらに強まる可能性も否定できず、これまで底堅く推移してきたウォンが急落するシナリオが現実味を帯びてきたように思える。
■村田雅志
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。
三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。
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