「世界一幸福な国」移民めぐる悩み デンマーク連続テロ
source : 2015.02.23 朝日新聞 (ボタンクリックで引用記事が開閉)
市民2人が亡くなったデンマークの連続テロ事件の容疑者が射殺されて22日で1週間。テロは、中東などからの移民を積極的に受け入れてきた「世界一幸福な国」が抱えるひずみを、浮き彫りにしている。
コペンハーゲン北西部の繁華街に近いアパート前。地面に黒ずんだ血液のしみ、玄関に数発の銃弾の跡が残る。(イスラム教の預言者)ムハンマドの風刺画家が参加する討論会場と、ユダヤ教礼拝所を襲撃したオマル・フセイン容疑者(22)は15日朝、ここで警察に射殺された。
現場を訪ねてきたモロッコ系2世の女子学生リナ・ココさん(23)は事件後、路上で「お前らのせいだ」と怒鳴られた。イスラム教徒のスカーフを理由にバイトの採用を断られたこともある。「私も時々、疎外感を持つ。なぜ事件を起こしたか話し合う必要がある」
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のイスラム教徒、アドナン・アブディッチさん(29)も訴えた。「事件の原因は、『表現の自由』を盾に風刺画でイスラム教徒を侮辱した人たちだ」
1993年に内戦中の母国を逃れた。デンマークでは難民申請が認められるなどして滞在許可が出ると、生活費のほか、語学や職業訓練などの支援を受けられる。アブディッチさんもおかげで専門学校を卒業できた。
だが、「移民の社会への融合が語られるとき、国が手厚い保護をする代わりに、自分の宗教や文化の一部を捨てろと言われているように感じる」と話す。
■受け入れ政策、岐路
デンマークは世界有数の福祉国家で知られる。2013年の国連の報告書では、1人あたり国内総生産(GDP)や汚職度などの指標に基づく「幸福度」が世界1位になった。
60年代から労働力不足を補うため、移民を歓迎してきた。80年代からは積極的に難民も受け入れる。移民は人口の11%を占める。
だが、90年代から「高福祉へのただ乗り」などの批判が出始めた。01年に自由党と保守党が連立して誕生したラスムセン政権は、移民の家族の呼び寄せに年齢や所有財産などの条件を設ける移民規制を実施。閣外協力した右翼「デンマーク国民党」党首は移民への差別的な発言を繰り返した。
オーフス大のメディ・モザファリ教授(イスラム過激主義研究)は「テロで社会にくすぶる矛盾が露呈した」とみる。ラスムセン政権は難民の母国のイラクやアフガニスタンに派兵した。「若者らは祖国を攻撃されていると感じ、過激化の要因の一つにもなった」
過激派「イスラム国」などに参加するデンマーク人は100~150人とされ、人口比では西欧でベルギーに次いで多い。
11年に発足した中道左派のトーニングシュミット政権は移民規制を緩和した。だが、国民党が昨春の欧州議会選で国内第1党となるなど移民への反発は根強い。
国内では、移民たちの社会を指して「パラレル(平行)社会」という言葉が使われる。「デンマーク人になったのに、帰属意識に欠ける」と批判する意味合いがある。国民党の広報官は「今回の事件でパラレル社会の存在が改めて明らかになった。移民もデンマークの価値や主義を尊重する努力をすべきだ」と話す。
■消えない「格差」
そんな社会には「格差」が存在するようだ。政府統計によると、16歳から64歳までの就業率は、国全体の73%に対して、西欧以外からの移民は47%と低い。
フセイン容疑者が育った地区は射殺現場から約1キロ。古びたアパートが並び、至る所に落書きと監視カメラがある。AFP通信によると、住民の86%が移民系で46%が失業中。難民も多い。同容疑者もパレスチナ難民の家に生まれた。
イスラム教の支援団体「イスラム社会」広報のイムラン・シャーさん(39)は指摘する。「難民は戦争という無法地帯から逃れ、普通の移民以上に支援が必要。それなのに政治が追い詰めている」
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