source : 2015.03.27 産経ニュース【正論】拓殖大学総長・渡辺利夫
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現在の中国経済のありようを端的に表現する用語法は「国家資本主義」(ステートキャピタリズム)である。これを担う主体の一つが、中央政府の直接的管轄下の国有企業群である。「央企」と呼ばれる。120社に満たないこの央企が国有企業15万社の利潤総額ならびに納税総額の6割前後を占め、国家と共産党独裁のための財政的基盤を形成する。
■高い投資依存と過剰生産
央企の経営幹部には共産党指導部に連なる人々が座し、厚い財政・金融支援を受けて投資拡大を継続する特権的企業集団である。中国が圧倒的な投資依存経済となったのも央企の投資のゆえである。
もう1つの投資主体が地方政府である。中国の地方政府は単なる行政単位ではない。傘下の国有企業、銀行、開発業者を束ねる利益共同体である。地方政府は企業投資やインフラ投資、銀行融資に関与し、外資系企業の導入にも大いなる力を発揮している。シャドーバンキングとして知られる理財商品を開発して大量の資金を吸収し、これを不動産・インフラ投資に回すのも地方政府である。
資源、エネルギー、通信、鉄道、金融などの基幹部門における央企の投資に地方政府による不動産・インフラ投資が加わって、中国は先進国のいずれもが過去に達成したことのない極度に高い投資依存率の国となった。
その半面が家計消費という最終需要の低迷である。最終需要の裏付けのない投資拡大はいずれ限界を迎える。中国は所得分配の最も不平等な国の一つである。可処分所得に占める最終消費比率の高い低所得者層に所得が薄くしか分配されないために家計消費が盛り上がらないのである。胡錦濤政権は階層間で均衡の取れた「和諧社会」の実現を求めたものの、この間、所得分配は逆に不平等化してしまった。
高い投資依存の帰結が過剰生産能力の顕在化である。とりわけリーマン・ショック後の大規模な景気刺激策は深刻化していた鉄鋼、電解アルミ、鉄合金、コークス、自動車などの過剰生産をもはや放置できない状態としてしまった。
■窮地脱出のための海外戦略
指導部もこの事態を憂慮し「発展方式の転換」が胡政権以来のスローガンとなった。3月15日に閉幕した全人代(全国人民代表大会)で李克強首相が表明した「新常態」とは、要するに投資依存型の経済成長のこれ以上の追求は不可能であり、7%という近年の中国には例のない低成長率を「常態」(ノーマル)だと認識しようという提案である。記者会見で李首相はしかし、7%といえども実現は容易ではない旨を発言した。
その意味するところは、一方には、央企と地方政府という強固な利益集団の投資拡大衝動を抑制することは難しく、また成長鈍化にともなう雇用機会減少への国民の不満に火を点(つ)けてはならないという事情がある。他方には、投資依存経済をこれ以上放置すれば、資本ストック調整という反動不況リスクがますます高まることへの恐れが強い。ぎりぎりの妥協が7%なのであろう。
窮地を脱するための方途が、習近平政権によって打ち出された海外戦略である。輸出と外資導入によって積み上げられた4兆ドルという突出した外貨準備を原資として、拡大の一途を辿(たど)るアジアのインフラ建設需要に応じるための国際投資銀行の創設を図り、これを中国の過剰生産能力のはけ口とし、併せて中国企業の海外進出への道を開こうという戦略である。
「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の設立が急がれた理由である。昨年7月に合意された、BRICS銀行と通称される「新開発銀行」(NDB)も同様である。
■スキを突かれた日米の不覚
AIIBの資本規模は1000億ドル、出資額は参加国の経済規模に応じるとされ、中国の出資規模と発言権が際だって大きいものとなろう。AIIBには、東南アジア、中央アジア、中東の国々に加えて、先進7カ国(G7)からも英国に続いて独仏伊が参加を表明した。国内的矛盾の解消という不可避の政策課題の解決策を、中国の勢力圏の拡大につなげるというしたたかさを習近平政権はみせつけたのである。
世界銀行やアジア開発銀行(ADB)の高いハードルの融資基準に「中国基準」をもって臨み、周辺諸国のインフラ建設需要に迅速に対応することをもって旧来の国際金融秩序に挑戦するという戦略があらわである。
環境劣化と所得分配の不平等化を続ける中国が、巨大な「国家資本」をもって新たな秩序形成者として登場するというのも奇妙な構図だが、それゆえにこそ中国の力量を軽視してはならない。
中国の膨張、日米の力量の相対的減衰をこれほど端的に示した事例は近年ない。オバマ政権の「内向き志向」、遅すぎた安倍晋三政権の登場のスキをみごとに突かれてしまったのである。かかる帰結にいたらしめた日米の指導者の自省は徹底的でなければなるまい。
中国主導インフラ投資銀行は機能しない ~チャイナ・リスクを見極めよ~
source : 2015.03.26 Japan In-depth【田村秀男の“経済が告げる”】
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2015年3月、英国に続き、ドイツ、フランス、イタリアも、中国主導で設立準備中のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明した。米国の同盟国中の同盟国英国が米国の制止を振り切ったことで、同じく米国から不参加を求められている豪州、韓国も参加に前のめりだ。
そこで、日本政府や産業界内部では一部に欧州への追随を求める声が出ている。メディアでは「流れが変わった以上、現実的な目線で中国の構想と向き合うべきではないか。AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ」(日経3月20日付け朝刊社説)と言い出す始末だ。よく調べてわかるだろうが、中国はアジアのインフラ開発融資で主導力を発揮できるはずはない。「親中派」メディアの無知さ、甘さには目を覆いたくなる。
まず、参加すれば、日経社説の言う通り「日本は注文を出せる」のだろうか。中国はAIIBに50%を出資し、本部を北京に置き、総裁も中国政府元高官。マイナーな出資比率の国の代表がAIIBの運営や事業について意見を表明するなら、理事会の場しかないはずだが、中国側の説明では理事会はほとんど開かず、もっぱら総裁の専決で諸事を決めて行く。
総裁は重要事項については共産党中央委員会にうかがいを立てる。突き詰めると党中央総書記の習近平国家主席が最終決定権限を持つ。つまり、AIIBとは中国政府の各部局と同じように、党の指令下にあると見るべきだ。習総書記名代に過ぎないAIIB総裁に日本代表が物申せば通る、と信じるようなら、北京ではそれこそ物笑いの種にされるだろう。
AIIBは世界一の外貨準備を持つ中国の信用力と国際金融センターロンドンの英国の参加で、有利な条件で資金調達できる、と評価する見方もある。となると、年間で90兆~100兆円のアジア地域インフラ整備が実現するかのような気になり、「参加しないと受注競争で不利になる」というあせりにつながる。日経は上記の社説掲載以降、こうした産業界や政府内部の見方を引き合いに出しながら、暗に政府に参加を促し続けている。
では、中国はそれほど対外資金を提供することができるだろうか。中国の外貨準備は2014年12月末3兆8430億ドルに上るが、同年6月に比べて1500億ドルも減った。不動産市況や景気減速を背景に資本逃避に加速がかかっているためだ。外準を対外融資に役立てるどころか、中国当局は対外借り入れを増やして外準のこれ以上の縮小に歯止めをかけようと躍起となっている。
しかも、外準をおいそれと対外融資の財源に使えるはずはない。中国の金融制度というのは、中国人民銀行が流入する外貨に見合う人民元資金を発行する。外貨を取り崩そうとすれば民元資金供給を減らさざるをえなくなる。すると国内経済にデフレ圧力がかかる。外準は見せ金にしか過ぎなく、惜しみもなく対外信用供与に回すはずはないのだ。
対外資産から対外負債を差し引いたものが「対外純資産」である。純資産が多ければ、それだけ外部からの借金に頼らず、外部により大きな債権を持つのだから「債権大国」と呼ばれる。第1位は日本、第2位が中国、3位がドイツで、3カ国を比べたのが本グラフ(トップ画像参照)である。
中国の対外純資産は14年9月末時で1.8兆ドルの対外純債権を持ち、日本に次ぐが、外準を除くと、負債は資産を2.4兆ドルも上回る。外準も資産には違いないが、融資や証券のような他の金融資産と同列に扱うことはできない。実質的な中身からすれば、中国は「債権大国」どころか、債務大国なのである。
ロンドンなど国際金融市場にとってみれば、資本逃避に悩む中国は国際金融界にとって発展途上国の中で最大の融資先になっている。国際決済銀行(BIS、本部スイス・バーゼル)によると、中国の海外の銀行からの借り入れ残高は14年9月末、1兆700億ドルで、前年比2800億ドル増えた。世界全体での国際銀行融資2700億ドル増をしのぐ。
英国の参加はロンドンが取り仕切る国際金融界が中国の野心の後を押し、その上がりで儲けようという強欲主義そのものだ。それは戦前、ナチスにカネを流した国際金融界の姿とダブる。英国はお得意さん中国のAIIB参加要請に応えたのだろうが、国際金融界はリスクに応じて高い金利を要求するだろう。
巨額のインフラ・プロジェクト融資が北京主導でできるはずはない。日本の金融界は国際金融市場への最大の資金の出し手である。日経新聞など国内の中国に大甘の見方には与せずに、冷静にチャイナリスクを見極めるべきなのだ。
中国主導の「AIIB」 参加は焦る必要ない
source : 2015.03.26 J-CASTニュース【高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ】
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日本がアジアインフラ投資銀行(AIIB)へ参加すべきかどうか話題になっている。
AIIBは、中国主導の国際金融機関である。国際金融機関は、海外での活動において相手国政府との関係などで民間金融機関では情報収集がやりにくい分野で存在意義がある。また、単純に公的な金融活動であるとともに、一国の外交戦略の一環でもある。その意味で、各国の国益がぶつかり合う場でもある。
■欧米主導のIMF・世銀体制への挑戦
AIIBは、BRICS開発銀行と並んで、欧米主導のIMF・世銀体制への挑戦と受け止められている。中国が両方とも主導している。特に、AIIBでは中国だけで出資の半分を占める予定であり、ガバナンスの点で大いに問題がある。
具体的にいえば、AIIBの融資について理事会の関与がほとんどない。極端な話かもしれないが、中国トップがある国へのインフラ投資を政治判断したら、AIIBはプロジェクトの採算性などを度外視して融資するようなものだ。
中国の国内システムは、金利の自由化すらまだ終了していない途上国並みのものだ。そのため預貸利ざやが大きく、収益がたっぷり確保されているので、与信審査も甘く、国内の不良債権は巨額にのぼっていると言われているが、十分な開示はなされていない。
AIIBは、そのような未熟な金融システムを国際版にまで拡大しようとしているかのようだ。今のままのガバナンスであったら、中国政治家主導による国際融資で不良債権の山ができそうである。
それにもかかわらず、英独仏伊が参加しようとするのは、あからさまな現実主義である。目先の中国の成長は魅力的であり、中国との関係で実利をあげようとしている。
■中国がイギリスを狙った理由
しかも、中国の外交戦略は巧みだ。オバマ政権がレームダックになって一番弱体化しているときを見計らって、しかもアメリカと現在微妙な関係になっているイギリスを狙ってきた。オバマ大統領はチャーチルの植民地政策を批判していたので、イギリスの関係は従来ほど強固でないのも、見透かしていた。
イギリスは英連邦の盟主であり、イギリスを落とせば、オーストラリア、ニュージーランド、カナダはなびく可能性がある。イギリスのウィリアム王子が今月(2015年3月)訪中した段階で、勝負あった感じだ。アメリカは外交政策でどうやら失敗したようだ。
日本としては、AIIBのライバルであるアジア開発銀行(ADB)があるので、すぐにAIIBに参加とはいかない。ただし、長い目でみれば、AIIBには一切関与しないのも外交戦略上マイナスだ。
焦ることはない。中国には、国際金融業務のノウハウがないので、いずれアジアで実績のある日本に水面下では協力を求めてくるはずだ。オモテの政治とウラの実務を使い分けてくるのが中国のやり方だ。
日本は、実務への協力要請がきた後、AIIBの融資に理事会が実質的に関与できるかどうかを見極めてから、AIIBに参加したらいい。
融資案件を理事会で決定するという国際標準の仕組みがないまま、焦って参加したら、不良債権を押しつけられるだけになる可能性もある。しかも、AIIBが北朝鮮に融資するとなったら、どうしたらいいのか、よく考えておくべきだ。
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