source : 矢来町ぐるり【週刊新潮 2015年3月19日号】(クリックで記事開閉)
東日本大震災から4年。原発事故は収束せず、今なお8万人の避難民が不自由な生活を強いられている。故郷を追われた彼らはやり場のない怒りからストレスを溜めこみ、生活が荒む事例も起こっている。1億5000万円の受領者も出るという補償金が招く日常的荒廃とは。
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寝室と浴室が、壁のない同一のスペースに設(しつら)えられた十数畳の特殊な空間。ピンクの照明が淫靡な雰囲気を醸し出す。下半身にバスタオルをまいた20代前半の男は、ベッドに腰掛け、タバコをくゆらせながら、傍らでロングドレスに身を通そうとしている女性に向かって口を開いた。
「じゃあ、また別の子、呼んでもらえる?」
女性は驚いて、
「まだ延長するんですか」
男がこの部屋に入ってからすでに6時間が経過していた。しかも実は彼の来店は2日連続。前日も9時間、店内に留まり、接客サービスにあたる女の子をとっかえひっかえしたばかりだ。当惑気味の女性に、彼はこう言い放った。
「金ならあんだ。東電からの補償金の600万円を全部、風俗で使ってやんべ」
福島県いわき市小名浜の、あるソープランドでの一コマ。仮設住宅に住むというこの避難民は、結局、この日も9時間豪遊し、15万3000円を支払った。店からすれば上客だが、ソープ嬢たちからブーイングが出たため、店側は翌日以降、彼を出入り禁止にしたという。原資には国費も投入され、我々が払う電気代にも転嫁される「原発補償金」の使われ方の実例の一つである。
「避難民のお客さんは、補償金で余裕があるから、よく来ますよ。やっぱり仮設住宅に住んでる30代半ばの無職の人がいるんだけど、一昨年から週4回ペースで来店してくれて、90分2万4000円で遊んでいきます。全部合わせて月に50万円の賠償金をもらっているそうで、ベンツ含めて車を2台も買ったって」(30代のあるソープ嬢)
■補償金でソープ嬢を身請け
さらには、こんな話も。
「南相馬からの60代の避難民で、毎回長時間遊ぶ人がいた。“結婚相手を探しに来てんだ”と口説かれましたが、受け流していました。その後、別の女の子にアタックしていたようで、その子が突然、“あの人、優しくて、お金持ちだから結婚するの”と言って、お店を辞めたから驚いちゃった」(別のソープ嬢)
現在、政府によって「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の3つの避難指示区域に指定されているのは、双葉郡双葉町や大熊町、浪江町など10市町村。その地域から避難している被災者の総数は約8万人に上る。
放射能汚染で家と仕事を失い、故郷を追われた彼らが、想像を絶する痛苦に喘いでいることは言うまでもない。現状や将来への不安から、極限のストレスを抱え、やり場のない怒りや焦燥感、苛立ちを募らせるのも当然だ。
被災者への賠償のため、東京電力は多岐にわたる補償金の制度を設け、支払いを行ってきた。これまで個人、法人などに支払われた合計額は5兆円近くに達する。細かな内訳は次回以降の記事で取り上げるが、個人では、4人家族ですでに総額1億4000万円を受領したか、今後受領する世帯数が400~500に上るという。もっとも、
「補償による“格差”に対する不公平感が避難先の地元住民の嫉妬や怨嗟を招き、双方の間に修復しがたい軋轢が生じています」(いわき市の住民)
というのだから慨嘆するほかあるまい。
(2)仮設住宅にBMWやレクサス
source : 矢来町ぐるり【週刊新潮 2015年3月19日号】(クリックで記事開閉)
東日本大震災から4年。原発事故は収束せず、今なお8万人の避難民が不自由な生活を強いられている。だが、避難先の生活では地元住民との軋轢も生じ始めた。その原因は賠償が生む不公平感だという。
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福島第一原発から南に40~50キロ離れたいわき市。人口33万人近いこの都市には目下、約2万4000人の避難民が居住している。補償金を得る権利を持つ者と持たざる者との確執がいつ表面化してもおかしくない場所が、いわき市中央台の丘陵地帯に広がっていた。
「ここには、高台に広野町からの避難民が住む仮設住宅があり、その下に楢葉町の仮設住宅、そして真新しい一戸建てが立ち並ぶ新興住宅街が、整備された通りを挟んで並んでいます」
と語るのは、広野町から逃れ、仮設住宅に住む60代の男性だ。
「広野町の住民への精神的賠償は、原発から20キロ圏外ということで、2012年の8月に打ち切られました。月の収入補償も避難指示解除に伴い、翌年末に終了した。一方、原発からの距離がわずか数キロしか変わらない楢葉町の連中は、未だに手厚い補償をもらっている。同じ仮設住宅に住む身とはいえ、待遇は雲泥の差なのです。向こうの仮設住宅の駐車場にはBMWやレクサスなどの高級車が並んでいる。そしてすぐ近くの新興住宅街は、3年前までは原っぱだったのに、あっという間に新築の一軒家が隙間なく立ち並んだ。補償金をもらっている避難者が購入したものが多いといいます。こっちは生活に四苦八苦しているのに……。なんでこれほどの“経済格差”が生まれるのか、納得がいきませんよ」
■補償金がもたらした日常の荒廃
やっかみが心無い犯罪も生んでいる。一昨年、仮設住宅に停められた車7台が窓ガラスを割られたり、ペンキをかけられる事件が発生したのだ。避難民のお金の使い方がハデだから、妬みが出ているとの指摘もある。
「パチンコ、外食、買い物などに現れています。市内のパチンコ屋はいつも満員。潰れそうだったファミレスの入り口や大型スーパーのレジには長蛇の列ができている。彼らは医療費が免除されているので、病院も混み、今までなら30分待ちだったのが、3時間、4時間待ちになった。医師に対し、“一番高い薬をくれ”なんて言い方もして顰蹙を買っています」(市民)
タクシーの運転手も、
「仮設住宅のお客さんには、私も何度も呼ばれました。朝9時前にお迎えに行き、パチンコ屋に直行です。3000円くらい車代がかかるんですが、一時は毎日のように出かける人もいた。そういう人は閉店まで遊んで、夜10時頃、また呼んでくれます。車中で“今日は10万円負けた”とか言いながら、次に指定する行先は田町と呼ばれる繁華街です。スナックやキャバクラに繰り出し、飲み明かす。帰りは午前様で、また仮設まで送っていくというのが日常の光景でした」
■俄かバブルに湧いたいわき市
ジャブジャブ注ぎ込まれた補償金は、いわき市の不動産の俄かバブルも招いた。昨年発表された公示価格や基準地価の上昇率は全国3位にランクアップ。むろんそれは実勢価格も押し上げ、
「郷ケ丘という新興住宅地は、震災前、坪14万円ほどでしたが、今は20万円以上に高騰。32万円のところも出たと聞きました。避難民の方が購入しているためで、彼らの8割~9割がキャッシュで買います」(不動産屋)
新築マンションも飛ぶように売れている。
「平(たいら)中央公園に建設され、昨年引き渡しとなったマンションは、全58戸が発売開始からわずか2カ月で完売した。あり得ないことです。同じ業者が来年の竣工をめざし、平の川沿いに開発中のマンションも、125戸もあるのに、すでに完売しました。いずれも2500万円台から4500万円台のファミリータイプで、購入者の半分近くが避難民の方です」(販売業者関係者)
物件が少なくなったことがさらに地価上昇を呼び、地元いわき市民には手が出せなくなっているという。その実情がさらに両者の溝を深めているのだ。
(3)4年で1億5000万 生涯賃金を上回る補償金
source : 矢来町ぐるり【週刊新潮 2015年3月19日号】(クリックで記事開閉)
東日本大震災から4年。原発事故は収束せず、今なお8万人の避難民が不自由な生活を強いられている。「『原発補償金』ジャブジャブの日常的荒廃(1)(2)」では俄かにもたらされた補償金バブルにより、歪んでしまった避難民と周辺地域の悲劇的な風景を追った。
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長引く避難生活で不満や鬱憤が溜まっているのは理解できるが、無軌道にお金を使うのはいかがなものか。これを可能ならしめる東電の補償金の内容について、説明しておこう。
震災時に避難等対象区域に住民票があった人への補償として、まず2011年3月から、避難民1人につき、精神的損害賠償として月10万円の慰謝料が支給されている。赤ん坊から老人まで一律で、震災後に生まれた子どもにも支払われる。
それとは別に就労不能損害賠償がある。震災前の給与と現在の収入を比べ、減収分を補填するものだ。
さらに家財道具や土地・家屋への賠償金がある。また避難先で新たに住宅(持家)を確保した人には、それにかかった費用の一部(賠償金では足りない部分)を補填している。
先の慰謝料については、さらに、一昨年末の文科省の原子力損害賠償紛争審査会の指針決定を受け、新たな措置が付け加えられた。
「現時点で放射線の年間積算線量が50ミリシーベルト超の帰還困難区域と大熊町、双葉町の方々に、移住を余儀なくされたことに対する慰謝料として、1人700万円を一括で上乗せすることになりました。過去に5年分を一括払いした分など、すでにお支払いした約750万円と合わせ、計約1450万円となる。いくつかの例外を除けば、これが精神的損害慰謝料の全てとなります。他の2区域につきましても、最大でもそれと同額に達するまでが目安となりますが、避難指示が解除されて以降は、1年間を相当期間として、月10万円をお支払いします」(経産省関係者)
こうした補償により、たとえば、楢葉町で農業をやっていた60代の男性は、
「母と二人暮らしでした。母は2年前に亡くなりましたが、慰謝料はすでに今年2月分までを一括して受け取っていた。江戸時代からあった屋敷や山林、トラクターなど農機具の賠償など、諸々合わせて、1億1000万円ほど支給されました。しかし、長年住み慣れた家を元通りにすることは叶わず、この倍はもらっていいと思っています」
帰還困難区域で持家ではなかった4人家族が受け取る補償は、約8000万円となる見込みだ。また先述の通り、持家があり、避難先で新たに住居を確保した4人家族では、400~500もの世帯が1億4000万円もの補償金を受け取る。さらに田畑や山林も所有していた避難民の中には、総額1億5000万円を超える補償を得る世帯もあり、その数は200前後に迫るものと見られている。
「震災前の福島県民の平均年収が約300万円だから、その50年分ですよ。わずか4年で生涯賃金を上回る収入を得る家族がごろごろ出ることになる」(県関係者)
そもそも高額補償を得られるのは、収入や資産が多かった世帯ではあるが。
■「6月危機」勃発!?
これらの補償のうち、東電は就労不能損害賠償を、先月末、打ち切った。しかしこれについては今後、ハレーションが起こる可能性がある。というのも、東電はこの終了を1年前からプレス・リリースで告知しているが、皆が皆、報道を見ているわけではないからだ。
富岡町の担当者によれば、
「この補償は、3カ月分がまとめて支払われる仕組みで、昨年12月~今年2月分の請求が3月から始まったばかりです。申請した人に東電が請求書を送ってくる。それに避難民が必要事項を書き込んで返送し、順次、払われます。今回のこの請求書に、避難民に対しては今年2月分までで減収補償が打ち切られる旨が記述されているので、それを読んで今後、町に相談してくる方が増えると思います。東電は、『個別のやむを得ないご事情により、就労が困難な状況にある方につきましては、個別のご事情に応じてお取扱いをさせていただきます』としていますが、その事情が具体的に何なのかは明らかにされていません」
しかも今回の請求書には、3月以降の賠償について、
「生命・身体的損害による就労不能損害」と「帰還にともなう就労不能損害」を取り扱うとの記述はあるが、その他の避難民への補償はこれで終了するというはっきりした文言は記されていないのだ。
「猛反発されるのを恐れ、明確な表現は避けた可能性があります。打ち切られると思っていない人たちが、6月に入って請求書が送られてこないことを受け、初めてその事実を知り、抗議してくるかもしれない」(先の県関係者)
3カ月後に「6月危機」が発生する危険性を孕んでいるのだ。
(4)減収補償を詐取 スナックや風俗での散財
source : 矢来町ぐるり【週刊新潮 2015年3月19日号】(クリックで記事開閉)
東日本大震災から4年。原発事故は収束せず、今なお8万人の避難民が不自由な生活を強いられている。「『原発補償金』ジャブジャブの日常的荒廃(1)(2)(3)」では補償金のもたらした悲劇的な風景と補償金制度について解説した。復興に結びつく有意義な補償金のあり方を考える。
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東電は就労不能損害賠償を今年2月分までで打ち切った。しかし東電は「個別のやむを得ないご事情により、就労が困難な状況にある方につきましては、個別のご事情に応じてお取扱いをさせていただきます」と補償が続く可能性を残している。
しかもこの減収補償にはこれまで抜け道もあった。
「私は覚醒剤の密売で実刑判決を受け、震災時は刑務所に収監されていました」
と語るのは、大熊町出身の30代の男性だ。生活圏は関東だったが、住民票を故郷に置いていたため、出所後の2012年から月10万円の慰謝料を受給。しかも、内定を取り消された学生が逸失分の賠償を受け取っていることを知り、
「出所後、帰還困難区域内の会社で働くことが内定しており、月給30万円もらうことになっていたが、放射能汚染でその道を絶たれたというストーリーを作り、申告しました。もちろん会社にも話を合わせてもらい、必要書類を提出したところ、認められ、30万円を受け取ってきました」
■補償金漬けで遠のく復興
避難民の中にはこうした補償金を貰い、有用とは思えぬ形で散財する者もいることは縷々述べてきた通りだ。繁華街の田町では、
「2週間連続で店に飲みに来た、大熊町出身の板前さんがいました。毎日7~8本、シャンパンを空け、l00万円くらい使ったよ」(ラウンジのホステス)
別のスナックのホステスもこう言う。
「去年の秋まで週4回通ってきた60代の元大工さんがいました。大熊町から避難してきて、借り上げ住宅に住んでたけど、預金通帳を2通見せられ、ビックリしたの。1通の預金残高は2000万円台で、もう1通は3000万円台だったから。夢はマンション経営で、“自分の部屋の隣に、君の部屋も用意してあげるから”と口説かれたけど、丁重にお断りしたよ」
一部の避難民の行動が大きくあげつらわれている面もあろうが、この手の話が掃いて捨てるほどあるのだ。
これまで避難指示が解除されながら、街の機能が戻らず、帰還を果たせない避難民は多くいる。こうした人たちの帰郷と生活再建を支援するための補償金の有意義な活用法はないものか。
「減収補償にしても、働かなくても補填してくれるのだから、仕事探しに本気で取り組む人がどれほどいることか。今なお遊んでいる被災者は、勤労意欲がそがれてしまった人たちです」
と訴えるのは、広野町のNPO法人『ハッピーロードネット』の西本由美子理事長だ。
「私は、補償をすべて否定しているわけではありません。年金暮らしのお年寄りややむを得ず就労できない人など、本当に必要な方への補償は大事です。そうでない賠償の実態があることが問題だと主張しています。それより賠償金は、古里に帰り、復興を目指す人のために、5年間税金を無償にする原資や、インフラ整備などに活用すべきです」
避難民の生活を立て直すための原発補償金が、郷里で再建を目指す被災者の自立を逆に妨げるケースも生んでいるとすれば、これほど滑稽な矛盾はあるまい。今後も続く補償のあり方を、根本的に見つめ直す時期が来ていると言えよう。
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