source : 2016.02.12 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
宇宙から届く「重力波」を米国の研究チームが世界で初めて検出したことが11日、関係者への取材で分かった。アインシュタインが100年前に存在を予言しながら未確認だった現象で、新たな天文学や物理学に道を開く歴史的な発見となった。今後の検証で正しさが揺るがなければ、ノーベル賞の受賞は確実だ。
検出したのはカリフォルニア工科大とマサチューセッツ工科大などの共同研究チーム。米国の2カ所に設置した大型観測装置「LIGO」(ライゴ)の昨年9月以降のデータを解析し、重力波をキャッチしたことを確認した。
重力波は重い天体同士が合体するなど激しく動いた際、その重力の影響で周囲の空間にゆがみが生じ、さざ波のように遠くまでゆがみが伝わっていく現象。アインシュタインが1916年、一般相対性理論でその存在を示したが、地球に届く空間のゆがみは極めて微弱なため検出が難しく、物理学上の大きな課題になっていた。
チームは一辺の長さが4キロに及ぶL字形のLIGOで空間の微弱なゆがみを検出。ブラックホール同士が合体した際に発生した重力波をとらえた。信頼度は極めて高く、検出は間違いないと判断した。欧州チームも研究に協力した。
重力波の観測装置を望遠鏡として使えば、光さえのみ込んでしまうブラックホールなど、光や電波では見えない天体を直接とらえることができる。また、重力波は減衰せずに遠くまで伝わる性質があるため、はるか遠くを探ることで宇宙誕生の謎に迫れると期待されており、宇宙の研究に飛躍的な進展をもたらす。
重力波の検出は1990年代以降、日米欧が一番乗りを目指して激しく競ってきた。米国は装置の感度を従来の数倍に高める工事を行い、昨年9月に観測を再開したばかりだった。
日本は東大宇宙線研究所が昨年11月、岐阜県飛騨市神岡町に大型観測装置「かぐら」を建設したが、米国と同水準の高感度で観測を始めるのは早くても約1年後の予定で、一歩出遅れた形となった。
「重力波」キャッチで原始宇宙の謎解明 「予言」から100年、直接観測へ
source : 2016.01.11 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■宇宙の謎に挑む究極の手段
アインシュタインが100年前に存在を予言し、宇宙の謎を解く鍵として注目される「重力波」。その直接観測に挑む取り組みが国内外で加速している。成功すればこれまで観測が不可能だった天体現象や、原始宇宙の解明に迫る大きな成果が期待されている。(草下健夫、黒田悠希)
物体の周りの空間は、その重力によってゆがめられている。物体が動くと、空間のゆがみはさざ波のように周囲に広がっていく。これが重力波だ。アインシュタインが1916年、一般相対性理論でその存在を示した。
重力波は人が腕を動かしても生じるが、波動が小さいため観測できない。検出可能なのは中性子星という非常に重い星同士の合体やブラックホールなど、巨大エネルギーを放つ天体現象によるものだ。
光や電波と違って全ての物質を貫通し、減衰せずに伝わっていく。このため天体の内部や、はるか遠くの原始宇宙で発生した場合でも地球に届く。検出できれば、人類は宇宙の究極の観測手段を手に入れることになる。
■成功ならノーベル賞
米国のハルスとテイラーは79年、互いに回転し合う2つの中性子星の運動の変化から重力波の存在を間接的に証明し、93年にノーベル賞に輝いた。直接観測に成功すれば、これもノーベル賞は確実だ。
重力波が到達すると空間にゆがみが生じ、距離がごくわずかに伸びたり縮んだりする。そこで考案されたのがL字形の観測装置だ。中心から2方向にレーザーを発射し、先端に置いた鏡で反射して戻るまでの時間に差が生じれば空間がゆがんだと分かり、重力波の検出につながる。
日本は99年、小型の装置を東京都三鷹市に設置し観測を開始。今世紀に入ると米国に1辺の長さが4キロ、イタリアに3キロの大型装置が完成し、高感度の観測が始まった。だが検出可能な天体現象は150年に1回程度しか起きない。地上に建設したため風や人間活動による振動で感度が低下した影響もあり、期待薄の状態が続いてきた。
■日米欧の競争激化
世界初の検出を目指す東大宇宙線研究所は昨秋、岐阜県飛騨市神岡町に大型装置「KAGRA」(かぐら)を完成させた。固い岩盤の地下に建設したのが最大の特徴で、地上と比べ振動は1%以下と少ない。3月中旬に試験観測を開始。2017年度に本格観測に入れば、1年以内に検出できるとみている。
米欧も負けじと振動対策やレーザーを強化する改良を進めており、年内にも工事を終える。日米欧は本格観測時にほぼ同水準の性能になりそうで、競争の激化は必至だ。
重力波の観測装置は宇宙の神秘を探る新たな望遠鏡の役割を担う。ノーベル賞を昨年受賞し、同研究所長としてかぐらを統括する梶田隆章氏は「一刻も早い検出を目指し、重力波天文学を国際協力で創成したい」と話している。
■地下空間に独自技術の結晶
観測装置「かぐら」の現場を昨年11月に訪れた。国道から車で山道に入ると、ほどなくトンネルに到着。ヘルメットを着けて中へと歩いた。
時折、自転車に乗った研究者とすれ違う。観測チームの三代木伸二准教授は「ここを走れるのは電気自動車と自転車だけ。トンネル内に排ガスがたまると体に悪いから」と話す。
5分ほど歩くと、L字形装置の中心部である中央実験室に到着。地中なのでひんやりした空間を想像していたが、セ氏22度と暖かい。機器に悪影響を与えるほこりを徹底的に除去するため100台超の空気清浄機が稼働しており、その発熱が原因という。
ひときわ目立つのが高さ約4メートルの冷却装置。本格稼働時には、ここに直径22センチのサファイアの単結晶でできた鏡を収納する。氷点下253度に冷やし、熱による鏡の振動を極力抑える独自の工夫だ。
中央実験室の先には、レーザーが行き来する真空パイプが3キロ離れた先端へ真っすぐ延びていた。かぐらは7億光年かなたから届く重力波もキャッチするという。人類の宇宙の探究は、ここからどんな展開を見せていくのだろう。
■原始宇宙の急膨張を検証
重力波観測のターゲットは天体現象だけではない。宇宙創生の謎を解き明かすため、初期宇宙で発生した「原始重力波」を探す試みが世界的に進んでいる。
南米チリのアタカマ高地。標高約5千メートルの砂漠で、望遠鏡を使った「ポーラーベア」と呼ばれる観測が行われている。原始重力波の痕跡を世界に先駆けて検出しようという日米欧などの国際プロジェクトだ。
宇宙は約138億年前の誕生直後、アメーバが一瞬で銀河サイズになるほどの急激な膨張を起こしたと考えられている。「インフレーション理論」と呼ばれる仮説で、佐藤勝彦自然科学研究機構長らが1980年代初頭に提唱した。観測で証明されればノーベル賞受賞の期待が大きい。
残念ながら現代の地球で初期宇宙を直接見ることはできない。光が直進するようになったのは、宇宙誕生の38万年後に「宇宙の晴れ上がり」という現象が起きた後のことだからだ。このときの光は「宇宙背景放射」と呼ばれる。
太古の宇宙で起きた急膨張は時空をゆがませ、重力波を発生させたはずだ。この原始重力波は、偏光という特殊な電波を宇宙背景放射に残したと考えられている。ポーラーベアが探すのは、この現象に特有の渦巻き模様だ。
観測に携わる高エネルギー加速器研究機構の羽澄(はずみ)昌史教授は「インフレーション理論が検証できるだけでなく、宇宙の全く新しい概念や根本的な原理が見えるかもしれない」と声を弾ませる。
羽澄教授は米国と共同で渦巻き模様を地上より高精度に観測するため、「ライトバード」という衛星を日本主導で打ち上げる準備も進めている。「時期は未定だが2025年頃と予想する。世界1位の感度が得られるはず」と意気込んでいる。
■宇宙で直接観測の構想も
原始重力波の直接観測を目指す動きもある。日本の大学や国立天文台などの研究者が提案する「DECIGO」(デサイゴ)は地表の振動の影響を受けず、超高感度の観測が可能な宇宙空間で原始重力波をとらえる構想だ。
3基の観測機を打ち上げ、1辺が1000キロに及ぶ巨大な正三角形の頂点に1基ずつ配置。互いにレーザーを発射して距離を計測し、地球では検出できない微弱な原始重力波をとらえる仕組みだ。成功すれば、インフレーション理論の詳しい理解につながる。
2030年頃の実現を目指すが、実証機の開発が昨年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内部選考で落選してしまった。
東大の安東正樹准教授は「宇宙の誕生と進化の謎を解き明かすことは、科学の究極の目標の一つだ」と観測の重要性を訴えている。
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