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2017/05/26


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メルケル首相も頭が上がらない老政治家の「冷徹な長期計画」 ついにドイツが「隠れ蓑」を脱ぎ始めた

 source : 2017.05.26 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」 (クリックで開閉)






■車椅子の老政治家




1990年10月3日、ようやくドイツ人の念願が叶い、東西ドイツが統一した。

その9日後、総選挙を控えて国が湧いていた最中、当時の内務大臣ヴォルフガング・ショイプレ氏は、地元の小さなビヤホールで行われたイベントに出席。顔見知りの支援者に囲まれた気楽な会が終わって外へ出たところ、イベントに参加していた若者が背後から近づき、1mも離れていない場所から3発の弾丸を発射した。

一発はショイプレ氏の首に当たり、もう一発は背骨を粉砕し、最後の一発は、倒れたショイプレ氏の上に覆い被さったSPの体を貫いた。

「足を感じない・・・」という悲痛な言葉を最後に気を失ったショイプレ氏は、近隣の病院に運ばれたものの、大量の出血と脊椎の損傷は手の施しようがなく、すぐにヘリコプターでフライブルクの大学病院に移送された。結局、何時間もの手術で奇跡的に命はとりとめたものの、第3胸椎から下の麻痺はどうすることもできなかった。

手術後、ようやく麻酔から冷めたショイプレ氏は、自分が二度と歩けなくなったことを知り、そばにいた娘に「なぜ、死なせてくれなかったんだ?」と言ったという。

ドイツのニュースを見る人で、車椅子に乗った鋭い目つきの老政治家の存在を知らない人はいない。事件から数ヵ月後、ショイプレ氏は家族の反対を押し切って政治に復帰した。こうしてすでにほぼ27年。ニュースの中では、錚々たるメンバーの政治家が歩く横を、いつも一台の車椅子が滑るように走っていく。

ショイプレ氏の意志の強さは、この図を見ると一目瞭然だ。車椅子は誰にも手伝わせず、必ず自分の腕で精力的に漕ぐ。現在74歳。2009年からは財務大臣を務めている。

■埋まらないEU内の亀裂

2009年といえば、リーマン・ショックやギリシャ債務問題に代表される世界的金融危機が膨らんだ時期だ。とくにギリシャ問題は、景気の良いドイツと破産寸前のギリシャという構図を越え、破産に向かっているのは、イタリアもスペインもポルトガルも、さらにはフランスも同様だということが明らかになった。

その途端、それらの国々で不満が噴出し始めた。彼らは自分たちの放漫経営には目を向けず、ユーロの構造の矛盾を指摘し、ドイツがその矛盾によっていかに得をしているかを取りざたした。しかも、それがなまじ嘘ではなかったこともあり、EU内の亀裂はどうしようもないほど広がっていった。

ギリシャは2010年以来、EUとIMF(国際通貨基金)からの融資で命をつないでいる。借金の帳消しをという声もあるが、それを許さないのが最大の出資者であるドイツだ。ドイツはあくまでも、ギリシャに融資をし、借金を返させる方針をとった。そして、融資の条件として、過酷な金融引き締めを求めた。




産業が回らず、雇用が失われ、景気が地に落ちた国に金融引き締めを強要しても、国民の暮らしはますます困窮するばかりだ。本来なら、ちゃんと徴税できればいいのだが、ギリシャではそれがまったく機能しない。仕方なく民営化も進めた結果、すでに14の空港はドイツの手に、最大の港であるピレウス港は中国の手に渡っている。

ただ、そうして苦労して受けた融資は、ギリシャに長年じゃぶじゃぶとお金を貸し付けていた他国の金融機関の利子の返済に回された。その結果、危機に陥ってすでに8年、年金や医療や福祉や教育費などを切り詰め過ぎたため、国民経済はすでに立ち直れないほど悪化している。EUに入っていなければ、ギリシャはとっくの昔に列強に食いちぎられた植民地の様相を呈していただろう。

現在、ギリシャは3度目の大型融資を待っている。融資を受ける条件を満たすため、ギリシャ政府は先週、国民の年金をさらに下げ、増税も決めた。国内では壮絶なデモが巻き起こったが、ギリシャは7月期日の利子返済分が70億ユーロあり、それまでに融資がなければデフォルトする運命なので選択の余地はない。

それにしても、ここ何年、何度こんなことが繰り返されてきたことか。

■ギリシャ人の憎しみもなんのその

しかし5月23日、ユーロ圏の財相の、ギリシャへの融資を決定する会議が、8時間の討議の末、決裂した。一番の理由は、ドイツとIMFとの意見の相違だ。

IMFは、ギリシャの負債は大きすぎて、このまま融資を続けても永久に解決できない、借金の帳消しが必要だと主張しているが、ドイツ政府はそれを認めない。ドイツ国民は、これ以上ギリシャにお金など出したくないと思っているので、政府がそんなことを決めたら大変なことになる。

だからこそショイプレ氏は、ギリシャの窮状を見ながらも「ノー」を言い続け、ドイツ国民は自分たちのお金を守るために「ノー」を言いきるショイプレ氏を頼もしく思っている。人気投票でショイプレ氏がいつもぴったりとメルケルの後につけているのはそのせいだ。

とにかく怖いものなしのショイプレ氏。ギリシャでは、間違いなく一番憎まれているドイツ人だろうが、それも平ちゃら。メルケル首相でさえ、EUでの憎まれ役を引き受けてくれるショイプレ氏には頭が上がらない。

そんな折、今度はドイツに対してアメリカからも非難の矢が飛んできた。原因はドイツの極端な輸出超過。これには、EU各国も、またIMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事もずっと抗議し続けている。「ドイツは労働者の賃金や国内投資を極端に抑えて、貿易収支の黒字額を年々拡大させている」と。

確かに、ドイツの教育やインフラへの投資は、他のEU諸国と比べると節約ムードが強い。たとえばブロードバンド接続への投資も遅れていて、他のEU国に比べて、ドイツはインターネット環境が悪い。住宅も託児所も足りない。

しかし、それらの抗議を突っぱねるショイプレ語録が、なかなか強烈だ。

ドイツの輸出超過は、「世界市場において、需要と供給の関係がもたらした結果であり」、「ドイツが公共投資を増やしたところで、他国の構造上の問題を解決することはできない」と、かなり上から目線だ。

「我が国の貿易収支の黒字縮小を目的とした筋の通った措置など無いし、そのための積極的な経済政策を講じる必要性も感じていない」とも言っている。

さらにショイプレ氏は、ここ数年、欧州中央銀行の総裁、マリオ・ドラギ(イタリア人)が行っている金融緩和政策まで非難。ドイツの独り勝ちは、強引にユーロ安を作っているドラギ総裁の政策が原因というわけだ。

■ついに欧州中央銀行を支配下に




EUはドイツにとって長いあいだ、自国の突出した力を相対化するための隠れ蓑であったが、昨今のショイプレ氏の強気の言動を見ていると、ドイツはそろそろ隠れ蓑を脱ぎ始めたのではないかと思えてくる。

シュピーゲル誌20号に、興味深い記事が載った。2019年、現在の欧州中央銀行の総裁ドラギの後任に、現ドイツ連邦銀行総裁のイェンツ・ヴァイトマン氏が座るのではないかという予測だ。ドイツにとって、欧州中央銀行の政策は、いわば目の上のたんこぶだ。

ヴァイトマン氏は1968年生まれで、メルケル氏の秘蔵っ子と言われる。2011年、異例の若さでドイツ連邦銀行の総裁に就任した。以来、EUの財政を司るトップメンバーの一員として、一貫して財政規律を主張し、現在のEUの超ゆる経済政策と戦い続けている。

本当にヴァイトマン氏が総裁になれば、EUではドイツの主張する経済政策が浸透しやすくなることは間違いない。

当時、メルケル首相とショイプレ財相が8年後を見越して、ヴァイトマン氏をドイツ連邦銀行の総裁に押し込んだのだとすれば、冷徹な長期計画である。このままいけば、そのうち、世界中がドイツの底力に気づき、アッと驚嘆するときがくるのではないか。


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